デジタルマーケティングの基礎:AIDMAからAISASへ、そしてAI時代へ変わる消費者行動を解説
この記事の要約(TL;DR)
- スマートフォンの普及に伴い、消費者の購買行動は「定型化されたマスのプロセス」から「より早く・複雑で・パーソナルなプロセス」へと激変しました。さらに生成AIの普及によって、この変化は新しい局面を迎えています。
- 従来の認知から購入へ至る「AIDMA(アイドマ)」モデルに対し、検索や共有を伴う「AISAS(アイサス)」モデルへの移行が起きましたが、今や「Search」そのものがAIとの対話に置き換わりつつあり、「Action」もAIエージェントが代行し始めています。
- 接触回数の多さを誇る「マス広告」と、欲しい人に欲しいタイミングで接触できる「デジタル」の得意領域を正しく使い分けることは、今も変わらず重要です。
- 施策単位で顧客コミュニケーションが分断されるのを防ぐため、顧客情報を「OneID」として個人単位で統合する仕組みは、AIが意思決定を代行する時代においてむしろ重要性を増しています。
※本記事はCRHが某企業様に向けて実施した研修内容を元に執筆しております。
なぜ今、デジタルマーケティングの基礎を見直す必要があるのか?
現代のビジネス環境において、「デジタルマーケティング」という言葉を耳にしない日はありません。しかし、その本質や「なぜ今、不可欠なのか」という根本的な理由を、自社の言葉で論理的に説明できるマーケティング担当者は決して多くはないのが現状です。デジタルマーケティングを正しく理解し、成果に結びつけるためには、まずその前提となる基礎知識と時代背景を見直す必要があります。
マーケティングの定義をシンプルに表現するならば、それは「売るための仕組み」ではなく、「お客様に買ってもらうための仕組み」です。つまり、マーケティングのあらゆる施策を企画・立案する際、主語となるのは常に「企業側」ではなく「お客様(顧客)」でなければなりません。これを「顧客起点(顧客視点)」と呼びます。
今、デジタルマーケティングがこれほどまでに重視されているのは、企業側がデジタルテクノロジーを使いたいからではなく、主語である「お客様の行動」がデジタルによって劇的に変化したからに他なりません。そして2024年以降、その変化を牽引しているのが「生成AI」です。従来のデジタルマーケティングの前提だった「消費者が検索エンジンでキーワードを打ち込み、自分で情報を取捨選択する」という行動様式そのものが揺らぎ始めています。
急速に多様化・複雑化する消費者行動
かつて、消費者が情報を取得するチャネルはテレビCMや新聞・雑誌広告、あるいは店頭のチラシといったマスメディアが主流でした。企業はこれらの一方通行のメディアを通じて一律のメッセージを大量に投下すれば、一定の認知を獲得し、購買へと導くことが可能でした。
しかし、スマートフォンの爆発的な普及とSNSの台頭により、状況は一変しました。現代の消費者は、手のひらの上のデバイスからいつでも、どこからでも、膨大な情報にアクセスできます。さらに、利用するメディアもFacebook、Instagram、TikTok、各種Webメディア、検索エンジンなど、人によって千差万別です。1人ひとりが異なるアプリをインストールし、異なるコミュニティに属し、異なる文脈で情報を消費しています。
このように、消費者行動が「定型化されたマスのプロセス」から「より早く、複雑で、パーソナルなプロセス」へと移り変わった結果、従来のやり方だけではお客様にメッセージを届けることが極めて困難になりました。だからこそ、デジタルを活用してお客様の今の状態を捉え、適切なコミュニケーションを設計する「デジタルマーケティング」の重要性が叫ばれているのです。
そして今、この複雑化はさらに一段階進んでいます。消費者は「どのサイトを見るか」を自分で選ぶだけでなく、「AIに聞いて要約してもらう」という新しい情報消費のかたちを選び始めているのです。
消費者行動の変化:「AIDMA」から「AI時代のAISAS」へ
消費者行動の複雑化を捉えるための代表的なフレームワークとして、古くから使われている「AIDMA(アイドマ)」モデルと、デジタル時代に対応した「AISAS(アイサス)」モデルがあります。この2つのプロセスの違いを理解することは重要ですが、AI時代の今、AISASモデルもまた更新を迫られています。
マスメディア主体の「AIDMA」モデル
AIDMAモデルは、1920年代に提唱された消費者の購買心理プロセスをモデル化したものです。以下の5つのプロセスから構成されています。
- Attention(認知):テレビCMや看板などで商品を知る
- Interest(興味・関心):記事を読んだり話を聞いたりして、商品に興味を持つ
- Desire(欲求):商品が欲しい、試してみたいと感じる
- Memory(記憶):商品の名前や存在を頭に記憶する
- Action(行動):店頭に足を運び、実際に商品を購入する
このモデルの最大の特徴は、情報が企業から消費者へ向かって一方通行で流れる点にあります。消費者は受け取った情報を脳内で処理し、記憶を頼りに店頭で購買アクションを起こします。そのため、企業にとっては「いかに消費者の視界に入るか」「いかに接触回数を増やして記憶に残すか」という、マスメディアを通じた物量作戦(マス広告)が非常に有用でした。
検索と共有が鍵となる「AISAS」モデル(従来型)
一方、インターネットやスマートフォンの登場によって定着したのが「AISAS(アイサス)」モデルです。電通によって提唱されたこのモデルは、デジタルの特性である「自発的な検索」と「他者への拡散」をプロセスに組み込んでいます。
- Attention(認知):SNSの投稿やWeb広告で商品に注目する
- Interest(興味・関心):ネットの動画や記事を見て購入意欲が高まる
- Search(検索):クチコミやレビュー、公式サイトで詳細を調べる
- Action(行動):商品に納得したら、ECサイトやその場で即座に購入する
- Share(共有):SNSやLINEで購入体験や感想を他者と共有する
このモデルでは、消費者は複数のサイトを自分の目で見比べ、自分の頭で判断して「Action」に至る、という前提が置かれていました。
アップデートが必要な理由:「Search」と「Action」の主役が変わりつつある
しかし、生成AIの急速な普及によって、このAISASモデルの根幹である「Search(検索)」の中身そのものが変わり始めています。
① 「検索する」から「AIに聞く」へ
従来の消費者は、検索エンジンに複数のキーワードを打ち込み、表示された10件のリンクを自分でクリックして比較していました。しかし現在は、ChatGPTやPerplexity、あるいはGoogleのAI Overview(生成AIによる検索結果要約)に「〇〇と△△、どっちがいい?」と直接尋ね、AIがまとめた回答だけを見て次のアクションに移る消費者が急増しています。これは単なる検索の効率化ではなく、情報の取捨選択という認知プロセス自体をAIに委ねる、という質的に大きな変化です。

この結果、企業にとって重要なのは「検索結果で上位表示されること(SEO)」だけでなく、「AIの回答の中で自社が好意的に言及されること」になりつつあります。この対策は一般に「LLMO対策」「GEO(生成エンジン最適化)対策」と呼ばれ、従来のSEOとは評価の仕組みも対策の打ち手も異なります。
② 「Share(共有)」の主体もAIが介在し始めている
従来のShareは「実際に使った本人が、自分の言葉でSNSに投稿する」ことが前提でした。しかし今は、AIがレビューサイトやSNS上の口コミを要約・再構成して次の消費者に提示するため、消費者が目にする「他者の声」は、必ずしも一次情報そのものではなく、AIによってフィルタリング・編集された二次情報であるケースが増えています。
③ 「Action(行動)」すらAIエージェントが代行し始めている
さらに一歩進んで、AIエージェントが商品の比較検討から予約・購入の実行までを、人間に代わって行う動きも出てきています。この場合、企業が最終的にコミュニケーションを取る相手は「人間」ではなく「その人間の代理として動くAI」になる可能性があります。
これらの変化を踏まえると、AISASモデルは今後、次のような形へと発展していくと考えられます。
Attention → Interest → AI-Search(AIとの対話による情報収集) → Action(人間またはAIエージェントによる実行)→ AI-Share(AIによって再編集・要約される口コミ)

※AI検索時代における情報最適化の具体的な潮流(LLMO対策やGEO対策など)については、関連記事「AI検索時代に求められる新しい最適化とは?——LLMO対策 / GEO対策の基本とSEOとの違いを整理」で詳しく解説しています。
マス広告とデジタルマーケティングの役割分担
消費者行動がAI時代のAISASへとシフトしたからといって、従来のマス広告が完全に不要になったわけではありません。現代のマーケティングにおいて重要なのは、マス広告とデジタルマーケティングそれぞれの強みと弱みを理解し、適切に使い分ける「役割分担(チャネルミックス)」の視点です。
マス広告の強み:不特定多数への認知拡大
テレビCM、新聞、雑誌、交通広告などのマス広告が持つ最大の強みは、「圧倒的なリーチ力」にあります。自社の商品やサービスをまだ知らない潜在層、あるいは自ら検索しないような未認知層に対して、一気にアプローチを仕掛けることができます。
「接触回数の多さが重要」となる認知獲得の初期フェーズにおいて、マス広告は今なお非常に強力な武器です。市場における自社のプレゼンスを高めたり、ブランドの信頼感を醸成したりする上では、マスメディアが果たす役割は小さくありません。むしろAI時代においては、AIが学習・参照する情報源の中に自社ブランドの認知や評判がどれだけ蓄積されているかが、AIの回答内容にも影響するため、マス広告による地道な認知形成の価値は再評価されつつあるとも言えます。
デジタルマーケティングの強み:最適なタイミングでのパーソナルな接触
一方で、デジタルマーケティングが最も得意とするのは、「欲しい人に、欲しいタイミングで接触すること」です。
消費者が「家を建てたい」「新しいキッチンにリフォームしたい」と考え、情報収集を始めたその瞬間に、ピンポイントで必要な情報を届けることができます。また、ユーザーの過去の閲覧履歴や属性(年収、家族構成、居住地など)に基づいて、1人ひとりに最適化されたパーソナルなメッセージを届けることも可能です。
つまり、ターゲット全体の母数を広げる(認知を獲得する)ためには「マス広告」が有用であり、そこから個々の興味関心を引き上げ、購買行動(Action)へと促すためには「デジタル」が非常に高い効果を発揮します。この両者の得意領域を掛け合わせることで、マーケティング全体の投資対効果(ROI)を最大化できるようになります。
一律のメッセージ配信が抱える課題と分断されたコミュニケーション
デジタルマーケティングに取り組んでいるものの、「なかなか成果が出ない」と悩む企業の多くが陥っている共通の罠があります。それが、コミュニケーションの「施策単位での分断」です。
施策単位で分断されると購買寄与が測れない
従来の一般的なデジタルマーケティングでは、企業サイトの運営、バナー広告の出稿、キャンペーンの実施、メルマガの配信、LINE公式アカウントの運用などが、それぞれ個別の施策(点)としてバラバラに実施されがちです。
例えば、潜在層に向けて不特定多数に接触するバナー広告を打ち、興味を持った人にメルマガを登録してもらい、特定のユーザーに向けてLINEでメッセージを送る、といった一連の流れがあるとします。しかし、それぞれのデータが連携されていないと、以下のような課題が発生します。
- メルマガ会員のうち、誰がバナー広告経由で入ってきたのかが分からない
- LINEでメッセージを送っている相手が、すでに企業サイトでどのページを熱心に読んでいるのかを把握できない
- 最終的な購買や成約に対して、どのメルマガやどのWebページがどれくらい貢献したのか(購買寄与)を定量的に判断できない
結果として、すべてのユーザーに対して「一律のメッセージ」を送り続けることになり、見込み度合いの低い人に過剰な営業メッセージを送って嫌がられたり、逆に今すぐ情報が欲しい人に適切な案内が届かなかったりするミスマッチが起こります。これでは、せっかくのデジタル活用も施策単位の自己満足で終わってしまいます。
デジタル時代の顧客戦略:鍵を握る「OneID」
この「分断」という大きな課題を解決し、デジタルマーケティング本来のパワーを引き出すための切り札となるのが「OneID(ワンアイディ)」という概念です。この重要性は、AIが介在する時代においてむしろ高まっています。
顧客データの一元管理で実現する最適なコミュニケーション
OneIDとは、自社サイトへの訪問履歴、資料請求のフォーム送信データ、メルマガの開封状況、SNSやLINEでの接点情報、さらには実店舗やショールームでの行動履歴(オフラインデータ)にいたるまで、あらゆるタッチポイントでの顧客情報を「個人単位」で1つのIDに統合して一元管理する仕組みを指します。
顧客情報を個人単位で統合(OneID化)することで、ユーザーによって異なる情報経路、興味の対象、見込み度合いをリアルタイムで詳細に把握できるようになります。
- 「北欧風のデザインが好きなAさん」:暮らしのコラムやインテリアの事例を中心に紹介する
- 「住宅の断熱性能やアフターサポートを重視しているBさん」:構造の強みや保証制度に関する詳細データを届ける
- 「情報収集に疲れて、実物を見たいと感じているCさん」:近くのモデルハウスへの来場予約フォームを直接案内する
このように、人によって異なる文脈に合わせた「1to1(ワントゥワン)コミュニケーション」が可能になります。

AI時代のOneID:AIによるパーソナライズの「土台」としての価値
生成AIの活用によって、レコメンドやメッセージ文面の生成自体は誰でも簡単にできる時代になりました。しかし、AIがどれだけ優れていても、「誰に、何を伝えるべきか」を判断する材料となる統合された顧客データがなければ、精度の高いパーソナライズは実現できません。むしろOneIDによって蓄積された行動データは、AIを活用したレコメンドエンジンやリードスコアリングの「学習材料」として、これまで以上に価値を持つようになっています。データが分断されたままAIツールだけを導入しても、成果には結びつきにくいという点は、AI時代であっても変わらない、あるいはより顕著になっている課題と言えるでしょう。
点と点を線で結び、ビジネス目標を達成する
デジタルテクノロジーを活用して、自社サイトに訪れた見込み顧客の個人情報を獲得し、そこから受注、さらにはロイヤルカスタマー化(ファン化)にいたるまでのプロセスを「狙い通りに促す」こと。これこそが、本連載におけるデジタルマーケティングの定義です。
バラバラだった施策(点)をOneIDによって繋ぎ合わせ、顧客の行動履歴を「線」として捉えることで、初めて「購買意欲の高い人を見極めて適切なタイミングで連絡する」「最適なコンテンツを自動で届けて見込み客を育成する(リードナーチャリング)」といった高度な戦略が実践可能となります。結果として、成約率や保有率は劇的に向上し、ビジネスの成果(購買寄与)を定量的に証明できるようになります。
まとめ:顧客起点のアプローチを繰り返すことが成功への近道
デジタルマーケティングの本質は、決して複雑なITツールを導入することそのものではありません。テクノロジーを手段として活用しながら、変化し続ける「消費者行動」に徹底的に寄り添い、顧客起点のアプローチを企画・施策・評価のサイクルで数多く実行していくことにあります。
一律のメッセージを大量に送り出す時代は終わりを告げました。そして今、「検索して自分で選ぶ」時代さえも、「AIに相談して薦められる」時代へと移行しつつあります。これからは、お客様を深く理解し、AI時代のAISASのプロセスに沿って「欲しい情報を、欲しいタイミングで、時にはAIを介して」届ける仕組みを整えた企業が、市場で選ばれ続けることになります。
次回は、この基礎理論をベースに、実際に劇的な成果を上げた具体的な成功事例へと踏み込んでいきます。まずは、デジタルテクノロジーを活用して「見込み顧客の心理変容を促し、モデルハウスへの来場予約数を300%増加させた注文住宅メーカー様」のリアルな取り組みと、その舞台裏にある具体的な戦術を詳しく紐解いていきましょう。
デジタル時代に対応した顧客起点のアプローチを組織として実践し、マーケティング成果を最大化するためには、現場の担当者が体系的なスキルを身につけることが不可欠です。クリエイティブホープでは、実務に直結する次世代マーケター育成のための特別なオフライン研修プログラムをご用意しています。
デジタル人材は貴重で希少です
デジタルマーケティングの基礎を正しく理解し、実務に落とし込める人材は、実はそう多くありません。しかしそうした「デジタル人材」こそ、採用市場では希少で、育成には時間がかかります。
クリエイティブホープでは、本記事のような実践的なナレッジを体系的に学べる教育プログラム「Beyond’s Skills Training」を提供しています。外部リソースに頼らず、社内でDX推進の基盤を築きたい企業様は、ぜひサービス資料をご覧ください。
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