顧客企業別の収益性を分析する方法|優良顧客の見極めとクロスセル余地の見つけ方
売上ランキングの上位に並ぶ顧客が、そのまま利益への貢献度でも上位だと考えていないでしょうか。実際に原価まで含めて計算してみると、順位が入れ替わることは珍しくありません。
大口顧客ほど値引きの圧力が強く、要求水準も高い。対応する工数も多い。売上は大きいのに、手元に残る利益は中堅顧客の方が大きかった——という結果が出ることがあります。
この記事では、顧客企業単位で収益性を分析する手順と、その結果をクロスセルの提案リストに変える方法を整理します。
HubSpotで経営数字を扱う話の全体像はHubSpotで事業管理・管理会計を実現する方法【完全ガイド】にまとめています。
1. 売上上位が利益上位とは限らない
1-1. 順位が入れ替わる理由
顧客ごとの利益に差が出る要因は、主に3つです。
- 単価水準の違い:継続取引や大口取引では値引きが常態化していることがある
- 対応工数の違い:会議の頻度、修正の回数、緊急対応の多さは顧客ごとに大きく異なる
- 案件の性質:同じ金額でも、粗利率の高いサービスが中心か低いサービスが中心かで結果が変わる
2つ目が特に効きます。契約書に書かれていない部分——問い合わせ対応、追加の説明資料、社内調整のための同席——といった時間は、請求書に載らないまま原価だけを押し上げます。
簡単な例で見てみます。A社の年間売上が1億円、粗利率が18%なら粗利は1,800万円。B社は年間売上4,000万円ですが、粗利率が42%あるため粗利は1,680万円。売上では2.5倍の差がありますが、利益ではほぼ並びます。
ここに対応工数を加えるとさらに変わります。A社に年間800時間かけていて、B社は250時間で済んでいるなら、1時間あたりの粗利はA社が約2.3万円、B社が約6.7万円です。同じ1時間を投じたときのリターンが3倍近く違うことになります。
この視点を持つと、「どちらの顧客にリソースを厚く配分すべきか」という問いの答えが変わってきます。
1-2. 分析でわかること
顧客別の収益性を出すと、次のような判断ができるようになります。
- 価格改定を交渉すべき顧客はどこか
- 体制を見直すべき(工数をかけすぎている)顧客はどこか
- もっと投資してよい顧客はどこか
- 取引を縮小・終了する判断が必要な顧客はあるか
感覚で「あの会社は大変だ」と共有されていても、金額にならなければ交渉の材料にはなりません。数字にすることの意味はここにあります。
2. 分析に必要なデータを揃える
2-1. 集計の単位を企業に揃える
案件(取引)単位のデータを、顧客企業単位に集約します。HubSpotであれば取引は企業レコードに関連付けられているため、企業ごとに取引を合算すれば売上は出せます。
問題は原価と工数です。案件別の原価が取れていない状態では、顧客別の収益性も出せません。まず案件単位で原価を持たせることが前提になります。設定方法はHubSpotで案件別の原価・粗利を管理する方法で解説しています。
2-2. 案件に紐づかない工数をどう扱うか
顧客別の分析で必ず論点になるのがこれです。定例会議、問い合わせ対応、次期提案の準備——特定の案件に紐づけにくい時間が発生します。
選択肢は3つあります。
| 扱い方 | やり方 | 向き・不向き |
|---|---|---|
| 顧客単位で受ける | 案件に紐づかない工数を企業単位で記録する | 顧客別分析には最適。入力の受け皿が必要 |
| 主要案件に寄せる | その顧客の代表的な案件に合算する | 簡便だが、案件別の採算が歪む |
| 対象外にする | 案件工数のみで分析する | 手軽。手のかかる顧客が正しく評価されない |
顧客別の収益性を見るのが目的なら、1つ目が望ましい形です。「請求できない時間がどれだけ発生しているか」こそが、この分析で最も見たい部分だからです。
2-3. 期間を決める
単月では判断できません。案件の発生タイミングに偏りがあるため、少なくとも四半期、できれば年間の累計で見てください。
継続取引の顧客と単発の顧客が混在している場合は、それぞれ分けて集計した方が比較しやすくなります。
3. 粗利率×成長率で仕分ける
データが揃ったら、2軸で顧客を配置します。縦軸に粗利率、横軸に成長率(前年同期比)を取ると、4つの象限に分かれます。
| 区分 | 状態 | 取るべきアクション |
|---|---|---|
| 伸ばす | 粗利率が高く、成長している | リソースを優先配分。クロスセルを仕掛ける |
| 守る | 粗利率は高いが、成長が止まっている | 関係維持を優先。新しい提案余地を探る |
| 改善する | 成長しているが、粗利率が低い | 価格改定か、対応体制の見直し |
| 見直す | 粗利率が低く、成長もしていない | 条件の再交渉。縮小・終了の検討 |
3-1. 「改善する」象限の扱い方
最も判断を要するのがここです。成長しているので売上は増えていますが、粗利率が低いため、伸びるほど利益率が下がっていきます。
原因を切り分けてください。単価が低いのか、工数がかかりすぎているのか。前者なら価格交渉、後者なら体制や進め方の見直しです。同じ「低粗利」でも打ち手はまったく違います。
3-2. 「見直す」象限を機械的に切らない
数字だけで判断すると縮小・終了の対象になりますが、実際には別の価値を持っている場合があります。業界での知名度、事例として公開できる実績、紹介の起点になっている——といった要素です。
数字は判断材料であって、判断そのものではありません。この象限に入った顧客については、数字以外の価値も併せて確認してから決めてください。
4. 上位顧客への依存度を確認する
収益性と併せて見ておきたいのが集中度です。上位数社で売上や粗利の大半を占めている場合、そこが1社離脱しただけで業績が大きく揺らぎます。
4-1. 見るべき指標
- 上位5社が売上に占める割合
- 上位5社が粗利に占める割合
- 最大顧客1社が占める割合
売上の集中度と粗利の集中度がずれていると、実態が見えてきます。売上では分散しているのに粗利は1社に偏っている、という状態は、他の顧客の採算が悪いことを意味します。
4-2. 案件レベルでも確認する
顧客単位だけでなく、上位案件への集中度も見ておくと精度が上がります。同じ顧客でも、実は1つの大型案件が終われば取引がほぼ無くなる、というケースがあるためです。
粗利率×成長率のマップを、毎月自動で更新する
HS viewのカテゴリ別分析・企業別分析では、事業カテゴリや顧客企業を粗利率×成長率で仕分けて表示します。上位案件への依存度も同じ画面で確認できます。
5. 導入マトリクスでクロスセル候補を出す
ここからは攻めの分析です。顧客を縦軸、提供サービスを横軸に置いた表を作ります。
5-1. 表の作り方
各セルに、その顧客がそのサービスを導入しているかどうかを入れます。導入済みなら金額、未導入なら空欄です。
| 顧客 | サービスA | サービスB | サービスC |
|---|---|---|---|
| X社 | 導入済み | 導入済み | 未導入 ←候補 |
| Y社 | 導入済み | 未導入 ←候補 | 未導入 |
| Z社 | 導入済み | 導入済み | 導入済み |
この表の空欄がそのまま提案リストになります。特に、他の類似顧客が導入しているのに未導入の組み合わせは、提案の成功率が高い候補です。
5-2. 優先順位のつけ方
空欄をすべて提案するのは非現実的です。次の順で絞ってください。
- 3章で「伸ばす」に分類された顧客の空欄
- 同業種・同規模の顧客が導入しているサービスの空欄
- 既存サービスと組み合わせて効果が出るサービスの空欄
1番目から手をつけるのが基本です。関係性が良好で、かつ採算も良い顧客への追加提案は、成功率と収益性の両面で有利になります。
5-3. 未導入の理由を記録する
提案して見送られた場合、その理由を記録してください。「予算がない」「既に他社を使っている」「ニーズがない」では、次の打ち手が変わります。
理由の記録がないと、毎年同じ顧客に同じ提案をして同じ理由で断られる、ということが起きます。
6. 分析を毎月続けるための仕組み
6-1. 1回で終わらせない
顧客別収益性の分析は、多くの場合「経営会議で一度やって終わり」になります。集計に手間がかかりすぎるからです。
Excelで作る場合、案件データ、原価データ、工数データを集めて顧客単位に集約する作業が毎回発生します。分析そのものより準備に時間がかかるため、継続されません。
継続できるかどうかの分かれ目は、準備時間がゼロに近いかどうかです。会議の場でその日の数字が開ける状態になっていれば分析は続きますが、担当者が3日かけて資料を用意する形なら、数回で止まります。
逆に言えば、この分析を定着させたいなら、集計の自動化が前提条件になります。分析手法をいくら磨いても、準備工程が重ければ運用に乗りません。
6-2. 頻度を分ける
| 頻度 | 見る内容 |
|---|---|
| 月次 | 顧客別の売上・粗利の推移。異常値の検知 |
| 四半期 | 粗利率×成長率の仕分け。依存度の確認 |
| 半期・年次 | 価格改定・体制見直しの判断。取引方針の決定 |
毎月すべてを見る必要はありません。月次では異常に気づくことを目的とし、じっくり判断するのは四半期以降で構いません。
6-3. アクションに落とす担当を決める
分析結果が誰の宿題にもならないと、次回も同じ結果が出るだけです。「改善する」に分類された顧客について、誰がいつまでに何をするかを決めてください。
価格交渉なら営業責任者、体制見直しならPM、というように担当が変わります。分析の場で決めるのは、対象顧客と担当者と期限の3点で十分です。
なお、特定の顧客に工数が偏っている場合、担当メンバーの稼働にも影響が出ています。あわせてメンバーの稼働率とアサインをデータで判断する方法もご確認ください。
まとめ
- 売上上位と利益上位は一致しない。値引き、対応工数、案件の性質が順位を入れ替える
- 顧客別分析には案件別の原価が前提。まず案件単位で原価を持たせる
- 案件に紐づかない工数(定例会議、問い合わせ対応)をどう扱うかを先に決める
- 粗利率×成長率の4象限で仕分け、「改善する」は単価か工数かで打ち手を分ける
- 「見直す」象限は数字以外の価値も確認してから判断する
- 顧客×サービスの導入マトリクスの空欄が、そのままクロスセルの提案リストになる
- 集計に手間がかかると続かない。月次・四半期・年次で見る内容を分ける
よくあるご質問
Q. 顧客別の原価をどこまで正確に出すべきですか?
1円単位の精度は必要ありません。顧客間の相対的な差が分かれば、判断には十分です。まず外注費と主要な工数だけで概算を出し、順位の傾向を掴むところから始めてください。
Q. 間接費を顧客に配賦すべきですか?
顧客間の比較が目的なら、配賦前の粗利で足ります。配賦基準の設定に時間がかかるうえ、基準によって順位が変わるため、まずは配賦前で運用することをおすすめします。
Q. 分析の結果、大口顧客の採算が悪いと分かりました。何から手をつけるべきですか?
いきなり価格交渉に入る前に、原因を切り分けてください。単価が低いのか、対応工数が多いのかで打ち手が変わります。工数が原因なら、対応範囲の明確化や体制の見直しで改善できる場合があります。
Q. 新規顧客と既存顧客は分けて分析すべきですか?
分けた方が実態が見えます。新規は立ち上げの工数がかかるため、初年度の採算は低く出るのが普通です。同じ基準で既存顧客と並べると、新規開拓の評価を誤ります。
月次の事業管理をHubSpotで完結させる:HS view
企業別売上見込・企業別工数で、顧客単位の収益構造を一元管理。カテゴリ導入マトリクスがそのままクロスセルの提案リストになります。HubSpotの会社プロパティに登録した年間目標も自動で反映されます。