HubSpotで案件別の原価・粗利を管理する方法|計算プロパティと商品明細の使い方

HubSpotで案件別の原価・粗利を管理する方法|計算プロパティと商品明細の使い方

受注金額はHubSpotを見ればすぐ分かる。けれど「この案件、結局いくら残ったのか」を知ろうとすると、途端に手が止まる——。原価がHubSpotの外にあるからです。

売上だけを追っている限り、案件の良し悪しは判断できません。金額の大きい案件が、実は最も利益を圧迫していたというのはよくある話です。この記事では、HubSpotに原価を持たせて案件別の粗利を見えるようにする具体的な方法を、設計の選択肢から集計の限界まで順に整理します。

HubSpotで経営数字を扱う話の全体像はHubSpotで事業管理・管理会計を実現する方法【完全ガイド】にまとめています。

1. まず決めること:原価をどの単位で持つか

設定作業に入る前に決めるべきことがあります。原価を取引単位で持つか、商品明細単位で持つかです。ここを曖昧にしたまま項目を作り始めると、後から作り直しになります。

持ち方 粒度 向くケース 注意点
取引プロパティ 案件全体で1つ 1案件=1サービスで完結する。まず粗利だけ見たい 商材別の採算は見えない
商品明細 商材ごと 1案件に複数サービスが乗る。商材別の利益率を見たい 入力の手間が増える。誰が原価を入れるか要決定
外部で保持 任意 会計・原価システムが既に稼働している 突き合わせのキー設計が必要。二重管理になりやすい

迷ったら、まず取引プロパティから始めるのが無難です。商品明細まで設計しても、入力が回らなければ空欄のまま放置されます。粗い粒度で運用が定着してから細かくする方が、結果的に早く着地します。

2. 方法1:取引プロパティに原価を持たせる

2-1. 作るプロパティ

最小構成は次の4つです。

  • 原価(数値・手入力)
  • 粗利(計算プロパティ:取引金額 − 原価)
  • 粗利率(計算プロパティ:粗利 ÷ 取引金額)
  • 原価確定フラグ(見込値か確定値かの区別)

4つ目を軽視しがちですが、これが無いと「概算のまま放置された原価」と「確定した原価」が同じレポートに混ざります。粗利の数字を経営会議に出すなら、どこまでが確定値なのかを区別できる状態にしておいてください。

2-2. 計算プロパティの設定と制約

計算プロパティは、数値型のプロパティ同士を演算して結果を自動で格納する機能です。原価を入力すれば粗利が自動で出るため、営業に計算をさせる必要がありません。

ただし制約があります。

  • Professional以上のプランが必要(無料版・Starterでは利用不可)
  • 扱えるのは数値型のプロパティのみ
  • 演算は基本的な四則演算と日付の差分に限られる
  • 条件分岐(「サービスAなら係数0.8を掛ける」など)はできない

粗利率のように割り算を使う場合は、分母がゼロになるケースに注意してください。取引金額が未入力の案件が混ざると、レポート上で異常値として見えます。

設定自体は難しくありません。プロパティの作成画面で種類として計算プロパティを選び、対象となる数値プロパティを掛け合わせる形で式を組み立てます。「取引金額」から「原価」を引く、という指定をするだけで、以降は原価が入力されるたびに粗利が自動で更新されます。

注意すべきは、計算プロパティは後から式を変えると過去のレコードにも遡って適用される点です。原価の定義を途中で変更した場合、去年の粗利も新しい定義で再計算されます。期をまたいで数字の一貫性を保ちたいなら、定義変更のタイミングと、変更前の数字を別途保管しておくかを決めておいてください。

2-3. 向いているケース

1つの案件で提供するサービスが1種類、原価の中身も外注費が中心——という構造であれば、この方法で十分に機能します。設定は半日程度で終わり、翌月から案件別の粗利が見えるようになります。

3. 方法2:商品明細に原価を持たせる

3-1. 商品明細に原価プロパティを追加する

1つの取引の中に複数のサービスが乗る場合は、商品明細(ラインアイテム)側に原価を持たせます。商材ごとの単価・数量に加えて原価を入力できるようにすることで、「どのサービスが利益を生んでいるか」が見えるようになります。

取引側には、計算プロパティの集計機能を使って商品明細の原価合計をロールアップできます。これにより、明細で入力しつつ、取引レベルでも案件全体の粗利を確認できる構成になります。

3-2. 運用上の論点

設計としては正しいのですが、実務では次の2点が必ず問題になります。

誰が原価を入力するのか。 営業が見積を作る段階では、原価は概算しか分かりません。確定するのは外注先の請求が届いた後です。つまり、入力するタイミングと入力する人が、見積時と確定時で変わります。この流れを決めずに項目だけ作ると、見積時の概算が入ったまま更新されない状態になります。

商品ライブラリの原価をどう扱うか。 商品ライブラリに標準原価を登録しておけば初期値として使えますが、実際の原価は案件ごとに変動します。標準原価をそのまま実績として扱うと、粗利の数字が実態から離れていきます。標準原価はあくまで見積時の初期値と割り切り、確定値は別途上書きする運用が現実的です。

4. 原価の中身をどう分けるか

「原価」とひと括りにしていますが、中身は性質の違う4種類に分かれます。それぞれ確定するタイミングも、精度も違います。

種類 内容 確定タイミング 難易度
外注費・仕入 業務委託・パートナーへの支払い 請求書の受領時 低い。金額が明確
社内人件費 担当メンバーの稼働工数 × 時間単価 月次で工数を締めた後 高い。工数の記録が前提
直接経費 案件固有の交通費・ライセンス費など 経費精算時 中。案件との紐付けが必要
間接費の配賦 管理部門コスト・オフィス費の按分 月次決算後 高い。配賦基準の合意が必要

4-1. どこまでやるかを先に決める

4種類すべてを最初から追いかけると、たいてい途中で止まります。おすすめは、まず外注費だけで運用を始めることです。金額が明確で、入力する人も決まっており、精度が高い。これだけでも「赤字案件」の多くは検出できます。

間接費の配賦は、最後で構いません。配賦基準を全社で合意するのに時間がかかるうえ、配賦後の粗利は「どの基準で割ったか」に大きく左右されます。案件の良し悪しを判断するだけなら、配賦前の粗利で十分に用は足ります。

実際、原価管理を止めてしまう組織の多くは、精度を求めすぎたことが原因です。「人件費の時間単価をどう決めるか」「役員の稼働はどう扱うか」「受注前の提案工数は原価に入れるのか」——議論を始めると論点は無限に出てきます。

ここは割り切りが要ります。目的は正確な原価計算そのものではなく、赤字案件を早く見つけて手を打つことです。8割の精度でも、毎月見えている方が価値があります。精度は運用しながら上げれば済みます。

4-2. 社内人件費が最大の壁

受託・制作・コンサルのように、原価の大半が人件費であるビジネスでは、ここが避けて通れません。人件費を出すには工数が必要で、工数を出すには現場メンバーが日々の作業時間を記録している必要があります。

ところがHubSpotには、工数を入力する画面が標準では用意されていません。結果として工数はExcelや別ツールで管理され、月末に案件コードで突き合わせる作業が発生します。この構造についてはHubSpotで工数を管理する方法|CRMの中で入力・集計を完結させる設計で詳しく扱っています。

売上・原価・粗利・営業利益を、ワンクリックで切り替える

HS viewは、HubSpotの取引と商品明細を月別の1枚の表に一覧化します。金額セルをクリックすれば、誰の工数がいくら乗っているかまで遡れます。

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5. 月別に並べようとすると起きること

ここまでの設定で、案件ごとの粗利はHubSpotのレコード上に持てるようになりました。問題は、それを経営会議で使う表の形にするときに起きます。

5-1. 1枚の表に指標を積み重ねられない

やりたいのは、縦に案件、横に月を並べ、売上・原価・粗利・営業利益を切り替えながら見る表です。ところがHubSpotのレポートは、1つの集計軸に対して1つの数値を返す作りになっています。売上のレポート、原価のレポート、粗利のレポートを別々に作ることはできても、それらを同じ表の中で切り替える構造にはなりません。

結果として、それぞれをCSVで書き出し、Excelで案件コードをキーに結合する作業が残ります。レコード上に粗利を持たせた効果が、最後の一手前で薄れてしまうわけです。

加えて、この結合作業には固有のリスクがあります。案件名が途中で変更されていた、同じ顧客の類似案件が複数あって取り違えた、失注案件を除外し忘れた——こうしたミスは、結合した後の数字を見ても気づきにくい。合計が合っていれば、内訳がずれていても通ってしまいます。

月次の締めのたびに「数字が合わない原因を探す時間」が発生しているなら、それは作業量の問題ではなく、工程が分断されていることの症状です。

5-2. 商品明細を含めるとさらに複雑になる

商品明細に原価を持たせた場合、月別に並べるには「取引の日付」と「商品明細の金額」を組み合わせた集計が必要になります。カスタムレポートビルダーで対応できますが、切り口を増やすたびに同じ設計を繰り返すことになります。

5-3. 会計年度と按分の問題も重なる

会計年度が暦年とずれている場合の四半期集計、複数月にまたがる案件の按分——これらの問題も同じ表の上で同時に効いてきます。原価管理単体ではなく、月次の集計全体として設計する必要があります。

6. 集計まで含めてどう解決するか

原価をHubSpotに持たせること自体は、標準機能で実現できます。詰まるのはその先、月次の管理表として並べる工程です。ここで取れる手は3つあります。

  1. CSVで書き出してExcelで結合する:すぐ始められるが、毎月同じ作業が残る
  2. BIツールで可視化する:表現の自由度は上がるが、原価の入力先にはならない
  3. 月次の表を前提としたアプリを使う:集計と入力を同じ場所で扱える

どれが適しているかは、案件数、原価の内訳の複雑さ、社内に保守できる人がいるかで変わります。5つの手段(Excelを含む)を費用・期間・運用負荷で比較した内容は案件別収支を見える化する5つの手段を比較にまとめています。

まとめ

  • 設定に入る前に、原価を取引単位で持つか商品明細単位で持つかを決める。迷ったら取引単位から
  • 計算プロパティで粗利は自動算出できる。ただしProfessional以上、数値型のみ、四則演算のみ
  • 原価は「見込値か確定値か」を区別できる状態にしておく
  • 4種類の原価のうち、まず外注費だけで始める。間接費の配賦は最後でよい
  • 社内人件費を入れるには工数の記録が前提になる
  • レコードに粗利を持たせても、月次の表に並べる工程は別途設計が必要

よくあるご質問

Q. 無料プランでも粗利の管理はできますか?

原価を入力するカスタムプロパティは作れますが、粗利を自動計算する計算プロパティはProfessional以上が必要です。無料版の場合、粗利は手計算で入力することになり、更新漏れが起きやすくなります。

Q. 原価は見積の時点で入れるべきですか、確定してから入れるべきですか?

両方です。見積時の概算を入れておくと受注前に採算を判断でき、確定後に上書きすれば実績として使えます。重要なのは、どちらの状態なのかをフラグで区別しておくことです。区別が無いと、レポート上で概算と確定が混ざります。

Q. 間接費の配賦まで行うべきでしょうか?

案件の良し悪しを判断する目的なら、配賦前の粗利で足ります。配賦は基準の合意に時間がかかるうえ、基準によって結果が変わるため、まず配賦前で運用を定着させることをおすすめします。全社の利益構造を精緻に把握したい段階になってから検討してください。

Q. 会計ソフト側の原価と数字が合いません。

目的が違うため、完全に一致させる必要はありません。会計側は確定値、CRM側は判断のための概算という役割分担が現実的です。ただし乖離が大きい場合は、原価の計上ルール(どこまでを案件原価に含めるか)が揃っていない可能性があります。

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