HubSpotで工数を管理する方法|CRMの中で入力・集計を完結させる設計
案件ごとの粗利を出そうとすると、必ず工数の話になります。受託・制作・コンサルのように原価の大半が人件費であるビジネスでは、工数が分からなければ原価も分からないからです。
ところがHubSpotには、現場のメンバーが作業時間を記録する画面が標準では用意されていません。そのため工数はExcelや別ツールで管理され、月末に案件コードで突き合わせる作業が発生します。
この記事では、HubSpotを使いながら工数をどう扱うか、4つの設計パターンを比較したうえで、現場が入力を続けられる条件と、工数を原価・稼働率につなげる方法を整理します。
HubSpotで経営数字を扱う話の全体像はHubSpotで事業管理・管理会計を実現する方法【完全ガイド】にまとめています。
1. なぜ工数と売上がつながらないのか
1-1. 管理する単位が違う
売上は案件(取引)の単位で管理されます。一方、工数はメンバー×日付×作業内容という単位で発生します。この2つは粒度も、記録する人も、記録するタイミングも違います。
だから別々の場所に溜まる。そして月末に「案件Aの人件費はいくらか」を出すために、両者を突き合わせる工程が必要になります。
1-2. HubSpotのアクティビティでは代用できない
HubSpotにはミーティングやコールの記録機能があり、所要時間も残せます。「これで工数が取れるのでは」と考えたくなりますが、実務では足りません。
記録されるのは顧客とのやり取りに関する時間だけで、資料作成、設計、実装、社内レビューといった作業時間は含まれないからです。受託ビジネスの原価の大半は、この記録されない部分にあります。
1-3. 突き合わせのコストが毎月かかる
典型的な月末の流れは次のとおりです。現場が工数表を提出し、管理担当が1枚に集約し、単価を掛けて案件別の人件費を出し、HubSpotから売上のCSVを書き出し、案件コードで結合する。ここまでで数日かかります。
しかもこの結合は、案件名の表記ゆれや期中の名称変更で簡単にずれます。「数字が合わない原因を探す時間」が毎月発生している状態です。
2. 工数を持たせる4つの設計パターン
HubSpotを軸に工数を扱う場合、選択肢は大きく4つです。
| パターン | やり方 | 向くケース | 限界 |
|---|---|---|---|
| A:取引プロパティ | 取引に「総工数」の数値項目を持たせ、月次で更新する | 案件数が少なく、担当が1人で完結する | 誰が何時間かけたかは残らない。集計元は別途必要 |
| B:カスタムオブジェクト | 工数レコードを独立したオブジェクトとして持ち、取引と関連付ける | 構造として正しく持ちたい | 上位プランが前提。入力画面が業務向きではない |
| C:外部ツール連携 | 勤怠・工数管理SaaSで記録し、集計結果をHubSpotへ渡す | 既に工数ツールが定着している | 案件マスタの同期が必要。ずれると突き合わせが崩れる |
| D:専用アプリ | CRMのデータを参照する入力画面を用意し、結果をHubSpotへ反映する | 入力と集計を同じ場所で完結させたい | 導入コストがかかる。書き込み範囲の確認が必要 |
2-1. パターンAが破綻する理由
最も手軽なのはAですが、これは工数管理というより「工数の集計結果を貼り付ける場所」です。誰がどれだけ稼働したかは残らないため、稼働率の把握やアサイン判断には使えません。
また、その総工数はどこかで集計されている必要があります。つまりExcelの工数表は残ったままです。転記先が1つ増えただけ、という結果になりがちです。
2-2. パターンBの現実的な壁
カスタムオブジェクトで工数レコードを持つ設計は、データ構造としては正解です。取引と関連付ければ、案件別の集計もできます。
問題は入力です。現場のメンバーが毎日、CRMの管理画面からレコードを1件ずつ作成する運用は、まず続きません。1日3案件に関わっていれば、月60件のレコード作成が必要です。この負荷に耐えられる組織は多くありません。
加えて、カスタムオブジェクトは上位プランでの提供となるため、プラン要件の確認も必要です。
3. 外部の工数ツールと連携する場合
既に工数管理ツールや勤怠システムが動いているなら、それを活かす選択肢が現実的です。ただし、連携させる際に必ず問題になる点があります。
3-1. 案件マスタをどちらに置くか
工数ツール側にもプロジェクトの一覧が必要です。HubSpotの取引と、工数ツールのプロジェクトが1対1で対応していなければ、集計は成立しません。
ここで起きるのが、案件マスタの二重管理です。HubSpotで新しい取引を作ったら、工数ツール側にも同じ案件を登録する。名称を変更したら両方直す。この運用が回らないと、月末に「工数ツールにしかない案件」「HubSpotにしかない案件」が出てきます。
対策としては、HubSpot側を原本と定め、工数ツールへは一方向で同期する構成が基本です。逆流させないことが重要です。
3-2. 粒度を揃える
工数ツールが「プロジェクト」単位で管理していて、HubSpotが「取引」単位の場合、1つのプロジェクトに複数の取引がぶら下がることがあります。長期の顧客で、四半期ごとに取引を切っているようなケースです。
この場合、工数をどの取引に配分するかというルールが必要になります。連携の設定を始める前に、粒度の対応関係を整理しておいてください。
3-3. 更新のタイミング
工数が確定するのは月次の締め後です。一方、案件の状況は日々動きます。連携の頻度と、どの時点の数字を正とするかを決めておかないと、見るタイミングによって粗利が変わるという状態になります。
工数の入力から、HubSpotへの反映までを1つの画面で
HS viewでは、担当する案件の工数をその場で入力し、まとめてHubSpotへ反映できます。工数管理用のExcelを別に持つ必要がありません。自分の担当顧客の分だけ、チームメンバー分までまとめて確認・編集できます。
4. 現場が入力を続けられるUIの条件
工数管理が失敗する原因の大半は、仕組みの設計ではなく入力の定着です。どれだけ正しい構造を作っても、現場が入力しなければ数字は出ません。
続く仕組みには、いくつか共通した条件があります。
4-1. 案件が選択肢として出てくる
案件名を手入力させる仕組みは必ず崩れます。表記ゆれが起き、集計時に名寄せが必要になるからです。担当している案件が一覧から選べる状態が最低条件です。
4-2. まとめて入力できる
1件ずつレコードを作る形式ではなく、表形式で複数案件・複数日をまとめて入力できることが重要です。週の終わりに5分で終わる形なら続きますが、毎日15分かかる形は3週目で止まります。
4-3. 前回の内容を再利用できる
担当案件は毎週大きく変わりません。前週の内容をコピーして数字だけ直せる形にすると、入力時間は大幅に短くなります。
4-4. 自分に関係する範囲だけが見える
全社の案件が並ぶ画面から自分の担当を探す形は、それだけで負担です。担当している顧客・案件だけに絞られていることが望ましく、これは権限設計の話でもあります。
4-5. 入力した結果が返ってくる
これが最も見落とされます。入力しても何も返ってこない仕組みは、現場にとって「管理されるための作業」でしかありません。
自分の稼働状況が見える、担当案件の採算が見える、といった形で結果が返る設計にすると、入力の意味が変わります。定着率に最も効くのはこの点です。
5. 工数を原価と稼働率につなげる
工数が溜まり始めたら、2つの方向に展開できます。
5-1. 案件別の原価を出す
工数に時間単価を掛ければ、案件別の人件費が算出できます。これを外注費や直接経費と合算したものが案件の総原価で、売上から引けば粗利が出ます。
時間単価は、最初は職種別・等級別の平均値で構いません。1円単位の精度を追うより、毎月継続して出せることの方が価値があります。原価と粗利の設計についてはHubSpotで案件別の原価・粗利を管理する方法で詳しく扱っています。
5-2. メンバーの稼働率を見る
もう一方の展開が稼働です。メンバー×月で工数を集計し、月間の標準稼働時間(160時間など)を基準に割合を出せば、誰が逼迫していて誰に余力があるかが数字で見えます。
アサインの判断が感覚から数字に変わると、特定のメンバーへの偏りや、稼働率が低いまま放置されている状態に早く気づけます。詳しくはメンバーの稼働率とアサインをデータで判断する方法をご覧ください。
5-3. 見積精度の改善につながる
3つ目の効用として、見積の精度が上がります。実績工数が案件別に残っていれば、「この規模の案件は想定の1.3倍かかる傾向がある」といった補正が可能になります。
これは1年以上データを溜めて初めて効いてくる効果です。早く始めるほど価値が出る、という性質のものです。
6. 導入の進め方
いきなり全社展開すると、たいてい入力が定着せずに終わります。次の順序を推奨します。
- 単位を決める:日単位か、0.5時間単位か。細かすぎる粒度は入力を止める最大の要因です
- 1チームで試す:まず1部門・10名程度で1〜2ヶ月運用し、入力率を確認する
- 入力率を指標にする:正確さより、まず全員が出しているかを見る。8割の精度でも全員分ある方が使えます
- 結果を返す:集計した稼働率や案件採算を、入力したメンバーに共有する
- 展開する:定着を確認してから他部門へ広げる
3番目が重要です。導入初期に精度を求めすぎると、現場が「正確に書けないから出さない」という判断をします。まず出させることを優先してください。
まとめ
- HubSpotには工数入力の標準機能がなく、アクティビティ記録では作業時間を代替できない
- 設計は4パターン。取引プロパティは手軽だがExcelが残る。カスタムオブジェクトは構造は正しいが入力が続かない
- 外部ツール連携では、案件マスタの原本をHubSpot側に定め、一方向で同期する
- 定着の条件は「案件が選択肢で出る」「まとめて入力できる」「前回を再利用できる」「自分の範囲だけ見える」「結果が返る」
- 工数は案件別原価・稼働率・見積精度の3方向に展開できる
- 導入初期は精度より入力率を指標にする
よくあるご質問
Q. 工数はどのくらいの粒度で記録すべきですか?
案件別に0.5時間単位、あるいは日別に「何割をどの案件に使ったか」程度で十分なケースが多いです。作業内容まで細かく分類させると入力が止まります。まず案件別の合計時間が取れる状態を目指してください。
Q. 時間単価はどう設定すればよいですか?
職種別・等級別の平均値から始めるのが現実的です。個人別の実際の給与に基づく単価は、精度は上がりますが情報の取り扱いに配慮が必要になります。まず平均値で運用し、必要に応じて精緻化してください。
Q. 現場が工数を入力してくれません。
入力の手間が大きいか、入力した結果が本人に返っていないかのいずれかであることが多いです。まとめて入力できる形式か、前回分を再利用できるか、自分の稼働状況が見えるかを確認してみてください。項目を減らすだけで改善することもあります。
Q. 既に勤怠システムがあります。工数もそこで取るべきですか?
勤怠は労務管理、工数は原価管理と目的が異なります。同じ仕組みで取れるなら効率的ですが、案件別の配分ができないシステムであれば別に持つ必要があります。案件単位で時間を割り当てられるかが判断基準です。
月次の事業管理をHubSpotで完結させる:HS view
工数入力がCRMの中で完結し、管理用のExcelは不要に。入力された工数は案件別の原価に反映され、メンバー別の月次稼働まで同じ場所で確認できます。HubSpotへの書き込みは工数データのみに限定しています。