HubSpotの数字をExcelに転記しないための設計|脱・二重管理の進め方

HubSpotの数字をExcelに転記しないための設計|脱・二重管理の進め方

CRMを導入したのに、月末になると誰かがCSVを書き出してExcelに貼っている。導入前と作業量が変わっていない、あるいは増えている——。

これは珍しい話ではありません。そして多くの場合、原因はツールの選定ミスでも、現場の怠慢でもありません。転記が発生する構造が、設計段階で残されたままになっているだけです。

この記事では、なぜExcelが消えないのかを構造から分解し、どこから手を付ければ実際に転記が減るのかを整理します。「Excelを全部やめましょう」という話ではありません。残してよいExcelと、消すべきExcelを見分けるところから始めます。

HubSpotで経営数字を扱う話の全体像はHubSpotで事業管理・管理会計を実現する方法【完全ガイド】にまとめています。

1. なぜCRMを入れてもExcelが残るのか

Excelが残り続ける現場には、次の4つのうちいずれかがあります。順に見ていきます。

1-1. CRMに持っていない数字がある

最も多いのがこれです。売上と商談の情報はHubSpotにあるけれど、原価、外注費、工数、目標値がない。だから、それらを持っているExcelと突き合わせる作業が必ず発生します。

この場合、いくらレポートを工夫しても転記は消えません。足りないデータをCRM側に持たせない限り、突き合わせの工程は残ります。

1-2. 数字はあるが、必要な形に並べられない

データはCRMにあるのに、経営会議で使う表の形にできないパターンです。縦に案件、横に月を並べ、売上・原価・粗利を切り替えながら見る——という表現は、CRMのレポート機能が想定している形とは異なります。

結果として、複数のレポートをCSVで書き出し、Excelで結合する作業が残ります。データはあるので一見解決しているように見えますが、最後の一手前で手作業が発生している状態です。

1-3. 見せたい相手に見せられない

経営層や他部門に数字を共有したいが、CRMのアカウントを配れない。あるいは配ると見せたくない情報まで見えてしまう。だから、必要な部分だけをExcelに抜き出して共有する——という運用です。

これは権限設計の問題であって、集計の問題ではありません。にもかかわらず「レポートを作り込めば解決する」と誤診されやすい領域です。

1-4. 誰も「やめる」と決めていない

見落とされがちですが、これが最後まで残る要因です。CRM導入時に「今後はこちらで管理します」とは決めたものの、既存のExcelをいつ、誰の判断で廃止するのかを決めていない。

その結果、念のためExcelも更新し続ける期間が発生し、それが常態化します。二重管理は、移行期の一時的な措置が固定化したものであることが少なくありません。

2. 残してよいExcelと、消すべきExcel

Excelそのものが悪いわけではありません。むしろ、一時的な試算やシミュレーションではExcelの方が速い。問題は、Excelが原本になっていることです。

区分 具体例 判断基準
残してよい 価格のシミュレーション、単発の分析、社外提出用のフォーマット整形 使い捨てで、原本を更新しない
消すべき 案件管理表、月次収支表、工数管理表、目標管理表 毎月更新され、複数人が参照する
最優先で消す CRMと同じ情報を別々に持っている表 どちらが正しいか判断できない状態にある

3行目が最も危険です。同じ案件の金額が2箇所にあり、どちらが最新か分からない。この状態で経営判断をすると、判断そのものが揺らぎます。作業効率の問題ではなく、意思決定の信頼性の問題です。

なお、月次収支表を消すには原価をCRM側に持たせる必要があります。その具体的な方法はHubSpotで案件別の原価・粗利を管理する方法で解説しています。工数管理表についてはHubSpotで工数を管理する方法をご覧ください。

3. 転記が発生している箇所を棚卸しする

いきなり仕組みを変えようとせず、まず現状を可視化します。所要時間は、関係者へのヒアリングを含めて1〜2週間程度です。

3-1. 棚卸しの手順

  1. 社内で使われている管理用のExcelをすべて集める(部門ごとに聞き取る)
  2. それぞれについて、誰が・いつ・何分かけて更新しているかを記録する
  3. 元データがどこから来ているかを追う(CRM/会計/手入力/他のExcel)
  4. 同じ数字が複数のファイルに存在していないか突き合わせる
  5. 更新頻度 × 所要時間で、年間の作業時間を概算する

5番目まで出すことをおすすめします。「なんとなく無駄が多い」という感覚が、年間何百時間という数字になると、改善の優先順位が決めやすくなります。

3-2. 棚卸しシートの項目

項目 記入例 確認したいこと
ファイル名 案件別収支管理_2026 同じ用途のファイルが重複していないか
更新者・頻度 経営企画A/月1回・約4時間 属人化していないか
データの出所 HubSpotのCSV+工数表+請求書 何箇所から集めているか
利用者 役員会・事業部長 本当に見られているか
廃止可否 原価をCRMに持てば廃止可 廃止の条件は何か

棚卸しをすると、たいてい「誰も見ていない資料を毎月作り続けていた」ものが1つ2つ見つかります。これは仕組みを変えるまでもなく、その場で廃止できます。着手のきっかけとしても有効です。

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4. 設計原則:入力先を増やさない

棚卸しが済んだら、あるべき形を設計します。ここで守るべき原則は3つです。

4-1. 現場が入力する場所は1箇所にする

最も避けるべきなのは、二重管理を解消しようとして入力先を増やしてしまうことです。「経営が数字を見たいから、営業には新しい項目を10個入力してもらいます」——この形は、ほぼ確実に定着しません。

現場にとって、入力は本業ではありません。入力の手間が増えれば、精度は下がります。精度が下がった数字は使えないので、結局誰かがExcelで補正することになる。元の木阿弥です。

設計の目標は「経営が見たい数字を、現場の入力を増やさずに揃えること」です。既に入力されている情報から導けないか、他システムから取れないかを先に検討してください。

4-2. 原本をどこに置くか決める

どの情報の原本がどこにあるのかを、一覧で明文化します。案件の金額はCRM、確定した請求額は会計システム、工数は——というように、項目ごとに1箇所だけ決める。

原本が決まると、「数字が合わない」という問題の扱い方も変わります。どちらが正しいかを議論するのではなく、原本に合わせる。それだけです。

4-3. 転記の向きを一方通行にする

どうしても複数システムにまたがる場合は、データの流れを一方通行にします。CRM → 集計側、という向きだけを許可し、逆流させない。

双方向で更新できる構成にすると、どちらの更新が最新なのかを常に気にすることになります。書き込みの方向を限定しておけば、少なくとも原本が壊れる心配はなくなります。

5. 段階的な移行ステップ

一度にすべてを変えようとすると、たいてい途中で止まります。次の順序で進めるのが現実的です。

ステップ1:誰も見ていない資料を廃止する(1週間)

棚卸しで見つかった不要な資料を止めます。合意も投資も不要で、その場で効果が出ます。改善が進んでいるという実感を早く作ることが目的です。

ステップ2:不足しているデータをCRMに持たせる(1〜2ヶ月)

原価、目標値など、突き合わせの原因になっているデータをCRM側に移します。ここが本丸です。項目の設計と、誰がいつ入力するかの運用ルールをセットで決めてください。

ステップ3:集計の形を用意する(1〜2ヶ月)

データが揃ったら、経営会議で使う形に並べる仕組みを用意します。レポートの作り込み、BI、専用アプリのいずれかです。ここまで来ると、Excelでの結合作業は不要になります。

ステップ4:旧Excelを正式に廃止する(1ヶ月)

並行運用の期間を区切り、期限を決めて廃止します。「念のため残す」を続けると、そのまま定着します。1〜2ヶ月の並行期間で数字が一致することを確認したら、期日を決めて止めてください。

この段取りで進めた企業の実例は、導入事例でもご紹介しています。

6. よくある失敗

6-1. 完璧な設計を目指して動き出せない

すべての部門の要件を洗い出し、あらゆるケースに対応する設計を作ろうとすると、検討だけで半年が過ぎます。その間、転記作業は毎月続いています。

まず一番作業時間の長い1つの表を対象に、そこだけ解消する。次にもう1つ。この進め方の方が、結果的に早く着地します。

6-2. 現場の入力を増やして解決しようとする

4-1で述べたとおりです。経営側の要求をそのまま入力項目に変換すると、現場が疲弊して精度が落ちます。「その数字は本当に手入力でしか取れないのか」を都度確認してください。

6-3. 並行運用の期限を決めない

移行期に旧Excelを残すこと自体は妥当です。問題は、いつ止めるかを決めていないこと。期限のない並行運用は、そのまま二重管理として固定化します。

6-4. 数字が1円単位で合わないと進めない

旧Excelと新しい仕組みの数字が完全一致しないと移行できない、という進め方は行き詰まります。多くの場合、旧Excel側に手作業の調整が入っていて、そもそも再現できないためです。

差異の原因が説明できれば十分です。「Excelでは失注案件を含めていた」と分かれば、それは不一致ではなく定義の違いです。

まとめ

  • Excelが残る要因は「データが無い」「並べられない」「見せられない」「やめると決めていない」の4つ
  • Excelすべてが悪いわけではない。原本になっているExcelから消す
  • 同じ数字が2箇所にあり、どちらが正しいか分からない状態が最優先の解消対象
  • 棚卸しでは年間の作業時間まで概算する。優先順位が決めやすくなる
  • 設計の原則は「現場の入力先を増やさない」「原本を1箇所に決める」「転記の向きを一方通行にする」
  • 並行運用には必ず期限を設ける。期限のない並行運用は二重管理として固定化する

よくあるご質問

Q. Excelを完全になくすべきですか?

その必要はありません。単発のシミュレーションや社外提出用の整形など、使い捨ての用途ではExcelの方が速い場面が多くあります。消すべきなのは、毎月更新され、複数人が参照し、原本として機能しているExcelです。

Q. 現場がCRMへの入力に協力してくれません。

入力項目が多すぎるか、入力した情報が現場に還元されていない可能性があります。入力した数字が自分の担当案件の状況として返ってくる設計になっていると、定着率は変わります。項目を増やす前に、既存の入力から導けないかを検討してください。

Q. 会計システムとCRMで数字が合いません。どちらに寄せるべきですか?

用途が違うため、無理に一致させる必要はありません。会計は確定値、CRMは判断のための概算という役割分担が現実的です。ただし、どちらを原本とするかは項目ごとに明文化しておいてください。

Q. 移行にはどのくらいの期間がかかりますか?

棚卸しに1〜2週間、データの移行と集計の仕組みづくりに2〜4ヶ月、並行運用と廃止に1ヶ月程度が目安です。ただし、対象範囲と社内の体制によって大きく変わります。まず1つの表に絞って進めると、全体の見通しが立てやすくなります。

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