案件別収支を見える化する5つの手段を比較|Excel・HubSpot標準・BI・専用アプリ・原価管理ERP
「案件ごとにいくら残っているのか知りたい」——この要望に対する解決手段は、実は5つに整理できます。Excel、CRMの作り込み、BIツール、専用アプリ、原価管理ERP。
厄介なのは、どれも「案件別収支の見える化」を掲げていながら、出発点も守備範囲もまったく違うことです。会計から入るものと営業から入るもの、見るだけのものと入力までできるもの。同じ言葉で語られるため、比較検討の段階で混乱が起きます。
この記事では、5つの手段を費用・期間・運用負荷で横並びに比較したうえで、自社の出発点によってどれが適しているかを判断できるように整理します。
HubSpotで経営数字を扱う話の全体像はHubSpotで事業管理・管理会計を実現する方法【完全ガイド】にまとめています。
1. 比較の前に:「見える化」の中身を分解する
ツールを比べる前に、自社が何を求めているのかを分解してください。ここが曖昧なまま製品比較に入ると、機能一覧を眺めて疲れるだけになります。
案件別収支の見える化は、次の5つの要素に分かれます。
| 要素 | 内容 | 自社の状況 |
|---|---|---|
| 売上データ | 案件ごとの受注額・計上額 | CRMにあるか、会計にあるか |
| 原価データ | 外注費・仕入・直接経費 | 案件と紐づいているか |
| 工数データ | メンバー別の稼働時間 | 記録されているか、入力先はあるか |
| 集計・表示 | 月次の表、指標の切り替え | 今はどこで作っているか |
| 権限・共有 | 誰にどこまで見せるか | 経営層への共有方法は |
この5要素のうち、いくつが欠けているかで必要な手段が変わります。集計と表示だけが問題ならBIで足りますし、原価や工数のデータそのものが無いなら入力の仕組みが要ります。
1-1. なぜ製品比較が混乱するのか
「案件別収支管理」で検索すると、性質のまったく違う製品が同じ土俵に並びます。これは各製品の出発点が異なるためです。
会計から出発したものは、確定した数字の正確さを重視します。プロジェクト管理から出発したものは、タスクと進捗を軸に原価を積み上げます。工数管理から出発したものは、日々の作業時間の記録が中心です。そしてCRMから出発したものは、営業の案件データを起点にします。
どれも間違っていませんが、自社が既に持っている資産と出発点が合っていないと、二重管理が生まれます。既に営業データがCRMに揃っている会社が、工数起点の製品を入れれば案件マスタが二重になる。逆に案件管理そのものが無い会社がCRM起点の仕組みを入れても、元になるデータがありません。
比較の軸は機能の多さではなく、自社の出発点と合っているかです。
2. 5つの手段の全体像
手段1:Excel・スプレッドシート
各システムからCSVを書き出し、Excel上で結合して管理表を作る方法です。追加費用がかからず、今日から始められます。
限界は明確で、更新が月1回になること、件数が増えると集計が月次業務を圧迫すること、そして作成者以外がメンテナンスできなくなることです。目安として、案件が100件を超える、関わる人が5人を超える、シートが複数に分かれて相互参照し始めた——このいずれかに当てはまったら次の手段を検討する時期です。
もうひとつ見落とされがちな限界が、履歴が残らないことです。同じファイルを上書きしていくため、先月時点でどう見えていたかを後から確認できません。見込が目減りした原因を追う、といった分析ができない構造になっています。
手段2:CRM(HubSpot等)を作り込む
既に使っているCRMにカスタムプロパティを追加し、計算プロパティやレポートで粗利を算出する方法です。新しいツールを増やさずに済むのが利点です。
具体的な設定方法はHubSpotで案件別の原価・粗利を管理する方法で解説しています。原価をレコードに持たせるところまでは標準機能で実現できますが、月次の表として並べる工程で手が止まりやすい点は押さえておいてください。
手段3:BIツール
Looker Studio、Power BI、Tableauなどに CRMのデータを渡し、経営向けのダッシュボードを構築します。複数のデータソースを統合できることが最大の利点です。
ただしBIは読み取り専用の下流工程で、原価や工数の入力先にはなりません。判断材料は経営数字はHubSpotとBIツール、どちらで見るべきかにまとめています。
手段4:専用アプリ
案件別の収支管理に特化したアプリを追加する方法です。CRMのデータを起点にしつつ、原価や工数の入力と月次の集計を担います。
既存の営業運用を変えずに事業管理の層だけを足せるのが特徴です。一方で、CRMとの連携方式(読み取り専用か、書き込みも行うか)は必ず確認すべき点になります。
専用アプリを検討する際に確認したいのは、次の4点です。
- 書き込みの範囲:CRM本体のどのデータを更新するのか。読み取り専用に近いほど、事故が起きたときの影響は小さくなります
- 自社の項目・パイプラインに合わせられるか:CRMの使い方は企業ごとに違うため、標準設定のままでは合わないことが多い領域です
- 設定変更を誰が行うか:パイプラインや項目は事業とともに変わります。変更のたびに開発が必要な構成だと、維持コストが膨らみます
- データの保管と解約時の扱い:金額データを預ける以上、暗号化や環境の分離、解約時のデータ返却と削除の方針は確認しておくべきです
手段5:原価管理ERP・案件型ERP
販売管理・購買・原価・請求までを一体で扱うシステムです。プロジェクト型ビジネス向けの製品としては、IT・広告・制作業に強いクラウドERP ZAC、プロジェクト収支管理に特化したプロカン、業種別に機能を選べるMA-EYESなどが知られています。会計ソフト起点であれば、freeeの原価管理向けのセットのような選択肢もあります。
網羅性は最も高い一方、導入期間とコストは最も大きくなります。
※ 各サービスの内容は公開情報に基づく概要です。機能・料金は変更される場合があるため、検討時には各社の最新情報をご確認ください。
3. 横並びの比較表
| Excel | CRM作り込み | BIツール | 専用アプリ | 原価管理ERP | |
|---|---|---|---|---|---|
| 初期コスト | ほぼ不要 | 小〜中 | 小〜中 | 中 | 大 |
| 月額コスト | 不要 | 既存プラン内 | 無料〜中 | 中 | 大 |
| 導入期間 | 即日 | 数週間〜 | 数週間〜数ヶ月 | 1〜2ヶ月 | 半年〜 |
| 数字の鮮度 | 月1回 | ほぼリアルタイム | 日次〜 | 日次〜 | リアルタイム |
| 原価の入力先 | あり(手入力) | 作れば可 | なし | あり | あり |
| 工数の入力先 | 別管理 | 標準ではなし | なし | あり | あり |
| 月次の表 | 自由に作れる | 難しい | 作れる | 標準で持つ | 標準で持つ |
| 保守の属人性 | 高い | 高い | 中 | 低い | 低い |
| 既存CRMとの重複 | ― | なし | なし | なし | 大きい |
※ コストは相対的な目安です。実際の金額は規模・要件により変動するため、各社の見積もりをご確認ください。
4. 自社の出発点による分岐
同じ「案件別収支を見たい」でも、現在の状態によって最適解は変わります。
4-1. 既にCRMが定着している場合
営業がCRMで案件を管理し、データが実態を反映している状態であれば、そのデータを原本として活かすのが最も早く、コストも抑えられます。
この状態でERPを導入すると、案件情報の入力先が2つになります。営業はCRMで商談を管理し、受注したらERPにも登録する。当初は「受注時だけだから」と許容されますが、金額変更や納期変更のたびに両方を直すことになり、やがてどちらかが実態とずれます。既にCRMがある企業にとって、ERPは二重投資になりやすいという点は押さえておいてください。
4-2. CRMが無い、または形骸化している場合
案件管理そのものが機能していないなら、収支の可視化より先に案件管理の基盤を整える必要があります。この場合はERP型を含めて、案件管理から収支までを一体で導入する選択肢が現実的です。
4-3. 会計側から入るか、営業側から入るか
この違いは意外と大きな分岐です。
会計起点の仕組み(会計ソフトの原価管理機能など)は、確定値としての精度が高い反面、数字が出るのは締めの後になります。進行中の案件の採算を見て手を打つ、という用途には向きません。
営業起点の仕組みは、進行中の案件も含めて概算で追えます。ただし確定値ではないため、決算数値としてはそのまま使えません。
どちらが良いかではなく、用途が違います。期中の判断に使いたいなら営業起点、決算精度が必要なら会計起点です。両方必要な場合は、役割分担を明確にしたうえで併用します。
既にHubSpotがあるなら、事業管理の層だけを足す
HS viewは、HubSpotの取引データを原本として月次の管理表に組み替える専用アプリです。営業の運用を変えずに、売上・原価・粗利・工数を1つの画面群で扱えます。
5. ERP型が向くケース・重すぎるケース
ERPは最も網羅的な選択肢です。だからこそ、必要かどうかの見極めが重要になります。
5-1. 向くケース
- 販売管理・購買・請求まで含めて刷新するタイミングにある
- 承認ワークフローや購買管理まで一体で回したい
- 案件管理の基盤そのものが無い、または作り直す前提がある
- 導入と定着に半年以上をかけられる体制がある
5-2. 重すぎるケース
- 営業データはCRMで既に回っており、変える予定がない
- 見たいのは月次の収支であって、購買や請求のワークフローではない
- 専任の推進担当を置けない
- 数ヶ月以内に数字を見られる状態にしたい
「せっかく入れるなら全部できるものを」という判断は、一見合理的に見えます。しかし機能が多いほど設計と定着に時間がかかり、その間ずっとExcelでの集計は続きます。今の課題を解くのに必要な範囲で選ぶ方が、結果的に早く効果が出ます。
5-3. 期間の差が意味すること
導入期間の差は、単に待ち時間の長さではありません。その間に発生し続けるコストの差です。
月次の集計に毎月20時間かけている組織であれば、導入が4ヶ月遅れるだけで80時間が失われます。加えて、その4ヶ月間は赤字案件の検出も遅れたままです。
導入期間の長い選択肢を選ぶ場合は、その期間中の暫定運用をどうするかもセットで計画してください。「導入が終わるまで今のまま」では、効果が出るのが1年後になります。
6. 選定チェックリスト
製品を比較する前に、次の10項目に答えてみてください。答えが埋まるほど、候補は自然に絞られます。
- 案件数は月間・年間で何件あるか
- 1案件に複数のサービスが含まれるか
- 原価の内訳で最も大きいのは何か(外注費/人件費)
- 工数の記録は現在あるか。無い場合、誰が入力できるか
- 受注月と売上計上月がずれる案件はどの程度あるか
- 会計年度の開始月はいつか
- 数字を見るのは誰か。何人か
- 見せたくない数字はあるか(原価、担当者別の利益など)
- 社内でこの仕組みを保守できる人はいるか
- いつまでに見られる状態にしたいか
特に4番と9番が効きます。工数の入力者を決められないなら人件費を含む原価管理は成立しませんし、保守できる人がいないなら作り込み型は避けた方が無難です。
6-2. 見積もりを取るときに聞くこと
候補が絞れたら、各社に同じ質問をぶつけて比較してください。回答の差が判断材料になります。
- 自社の会計年度(4月始まりなど)に対応できるか
- 既存のCRMやシステムと、どの方向にデータが流れるか
- 初期設定は自社で行うのか、依頼できるのか
- 導入後にパイプラインや項目が増えた場合、誰がどう対応するか
- 本番稼働までの具体的な工程と期間
- 解約時にデータをどう受け取れるか
最後の項目は聞きにくいかもしれませんが、重要です。数年分の収支データが取り出せない形で残ると、乗り換えの選択肢そのものが失われます。
6-3. 業種による傾向
原価構造は業種によって大きく違います。受託開発、制作、広告、コンサルのように原価の大半が人件費であるビジネスでは、工数の扱いが選定の中心になります。この領域の具体的な進め方は受託・制作会社がHubSpotで案件採算を管理する方法で扱っています。
一方、仕入や外注費が中心の業態であれば、工数管理の優先度は下がり、請求・支払との突き合わせが重要になります。この場合は販売管理寄りの製品が候補に入ります。
7. よくある失敗
7-1. 機能一覧で比較してしまう
比較表を並べると、機能が多い製品が優れて見えます。しかし使わない機能は、設定と維持のコストだけを増やします。1章で分解した5要素のうち、自社に欠けているものを埋められるかどうかで判断してください。
7-2. 精度を求めすぎて始められない
間接費の配賦基準、人件費の時間単価、提案工数の扱い——議論を始めると論点は無限に出ます。目的は正確な原価計算そのものではなく、赤字案件を早く見つけて手を打つことです。8割の精度でも毎月見えている方が価値があります。
7-3. 入力する人の負担を計算に入れない
経営が見たい数字を揃えるために現場の入力項目を増やすと、精度が落ちて結局使えない数字になります。選定時には「誰が、いつ、何分かけて入力するのか」まで具体的に確認してください。
7-4. 移行後もExcelを残し続ける
並行運用の期限を決めないと、新しい仕組みと旧Excelの二重管理が固定化します。1〜2ヶ月の並行期間で数字の整合を確認したら、期日を決めて旧Excelを廃止してください。
7-5. 決裁者と現場の要件がずれたまま進む
選定を主導するのが経営企画や情報システムで、実際に入力するのが現場という構図はよくあります。このとき、決裁側の要件(詳細な分析軸が欲しい)と現場の制約(入力に時間をかけられない)がすり合わないまま導入が決まると、稼働後に入力率が上がらず数字が揃いません。
選定段階で、実際に入力する部門の担当者を1人でも巻き込んでおいてください。デモを見てもらい、「これなら毎週続けられるか」を確認するだけでも、稼働後の結果は変わります。
まとめ
- 比較の前に「売上・原価・工数・集計表示・権限」の5要素のうち何が欠けているかを分解する
- Excelは案件100件・関係者5人が限界の目安
- CRMの作り込みは原価を持たせるところまでは可能。月次の表で手が止まる
- BIは見るための手段。入力先にはならない
- 既にCRMが定着しているなら、ERPは二重投資になりやすい
- 会計起点は確定値・締め後、営業起点は概算・期中。用途が違うので併用も選択肢
- 選定の決め手は「工数の入力者を決められるか」と「社内で保守できるか」
よくあるご質問
Q. まずExcelで始めて、後から移行するのは非効率ですか?
非効率ではありません。むしろExcelで運用してみることで、本当に必要な項目と不要な項目が判別できます。ただし移行のタイミングを決めずに続けると属人化が進むため、案件数や関係者数で判断の目安を先に決めておくことをおすすめします。
Q. CRMとERPを両方使うことはできますか?
技術的には可能ですが、案件情報の入力先が2つになる点に注意が必要です。どちらを原本とするかを明確にし、一方向で同期する設計にしてください。双方向で更新できる構成にすると、どちらが最新か分からなくなります。
Q. 導入判断の稟議で、費用対効果をどう説明すべきですか?
現在の集計作業にかかっている時間を実測するのが最も説得力があります。担当者数×月あたりの作業時間×12ヶ月で年間工数を出し、そこに人件費単価を掛けてください。加えて、赤字案件を1件早期に発見できた場合の損失回避額も判断材料になります。
Q. 小規模な組織でも専用アプリやERPは必要ですか?
案件数が少なければExcelで十分なことも多いです。ただし、案件が増えているのに集計方法を変えていない場合、ある時点から月次の締めが業務を圧迫し始めます。件数の推移を見て、先回りして検討するのが理想です。
月次の事業管理をHubSpotで完結させる:HS view
全案件の売上・原価・粗利・営業利益を、月別の1枚の表で。工数の入力から集計までを同じ画面群で扱えます。プログラム改修が不要な設定ベースの仕組みのため、導入期間とコストを抑えられます。