経営数字はHubSpotとBIツール、どちらで見るべきか|Looker Studio連携との使い分け
「HubSpotのレポートだと経営会議で使える形にならない。BIツールを入れるべきか」——この相談はよく受けます。
結論から言えば、BIが有効なケースとそうでないケースは、かなりはっきり分かれます。分かれ目は詰まっている原因が「並べ方」なのか「データそのもの」なのかです。ここを取り違えると、導入しても空のダッシュボードができるだけになります。
この記事では、HubSpot標準レポートとBIそれぞれの守備範囲を整理したうえで、連携方法ごとのコスト、そしてBIでも解決しない領域までを扱います。
HubSpotで経営数字を扱う話の全体像はHubSpotで事業管理・管理会計を実現する方法【完全ガイド】にまとめています。
1. HubSpot標準レポートの守備範囲
1-1. 得意なこと
HubSpotのレポートは、CRMのデータをその場で可視化する用途に最適化されています。
- 取引・企業・コンタクトの集計とグラフ化
- パイプラインの状況、担当者別の実績、ステージ別の滞留
- 目標に対する進捗(フォーキャスト、目標機能)
- レコード画面から関連データへの遷移
営業マネジメントに必要な数字は、この範囲でほぼ揃います。何より、データがある場所で見られるため、気になった数字から個別の案件へすぐ降りていけるのが強みです。
1-2. 苦手なこと
- 複数のデータソース(会計、広告、Web解析など)を統合した分析
- 案件を行、月を列に置き、複数指標を切り替えるような表現
- 累計線と月次棒グラフの組み合わせなど、複合的なビジュアル
- 過去のある時点の状態との比較
加えて、ダッシュボード数・カスタムレポート数にはプランごとの上限があります。作り込みを進めると、この上限に当たることがあります。
2. BIに出すと解決すること
Looker Studio、Power BI、Tableauといったツールにデータを渡すと、次の点が改善します。
2-1. 複数ソースの統合
最大の理由がこれです。HubSpotの商談データ、広告の費用、Web解析のセッション、会計の実績——これらを1つのダッシュボードにまとめられます。CAC(顧客獲得コスト)やROIのように、複数のシステムをまたがないと計算できない指標を扱う場合、BIはほぼ必須です。
たとえば「今月の広告費が300万円、そこから生まれた商談が20件、受注が4件、受注金額の合計が800万円」という一連の数字は、広告管理画面とHubSpotの両方にまたがっています。これを毎月手で突き合わせているなら、BIで統合する価値は明確にあります。
2-2. 表現の自由度
計算フィールドを自由に作れるため、HubSpotのレポートでは組めない指標も表現できます。累計と単月を同じ図に重ねる、条件によって色を変える、フィルタを連動させる、といった作り込みも可能です。
2-3. 閲覧者を増やしやすい
ダッシュボードのURLを共有するだけで見てもらえるため、CRMのアカウントを持たない役員や他部門にも数字を届けられます。「見るためだけにアカウントを増やすのか」という論点を回避できるのは、実務上大きな利点です。
2-4. 費用を抑えやすい
Looker Studioは無料で利用できます。Google環境を使っている組織であれば、初期投資をほぼかけずに始められます。
3. 連携方法は3パターン
HubSpotのデータをBIに渡す方法は、大きく3つに分かれます。手軽さと柔軟性はトレードオフの関係にあります。
| 方法 | 構成 | 初期の手間 | 向くケース/注意点 |
|---|---|---|---|
| コネクタ直結 | HubSpot → BI | 小 | まず試すならこれ。扱える項目やデータ量に制約が出る場合がある |
| スプレッドシート経由 | HubSpot → スクリプト → シート → BI | 中 | 加工の自由度は上がるが、スクリプトの保守が属人化しやすい |
| ETL+DWH | HubSpot → ETL → DWH → BI | 大 | 本格的な統合分析向け。ETLとDWHの利用料が別途発生する |
3-1. どこから始めるか
いきなりETL+DWHを組むのは、多くの企業にとって過剰です。まずコネクタで直結し、見たいダッシュボードが本当に作れるかを確認してください。制約に当たってから次の構成を検討しても遅くありません。
逆に、最初から複数ソースの統合が目的であれば、スプレッドシート経由は中途半端になりがちです。その場合はETL+DWHを前提に設計した方が、結果的に手戻りが少なくなります。
3-2. スプレッドシート経由の落とし穴
スクリプトでデータを取得してシートに書き出す方式は、コストがかからず自由度も高いため選ばれやすい構成です。ただし、書いた人しか中身が分からない状態になりやすい。
その担当者が異動したときに、エラーが出ても誰も直せない。ダッシュボードは表示され続けるものの、データの更新が止まっていることに数ヶ月気づかない——という事故が起きます。
見るだけでなく、入力と書き戻しまで1つの画面で
HS viewは、HubSpotの取引データを月次の表に組み替えて表示するだけでなく、工数の入力とHubSpotへの反映までを同じ画面群で扱えます。閲覧のみ・入力担当・管理者の3段階で権限も分けられます。
4. BIでも解決しないこと
ここが最も重要な部分です。BIは強力ですが、できないことがはっきりしています。
4-1. データを入力する場所にはならない
BIは可視化のツールです。原価や工数、目標値をBIの画面から入力することはできません。
つまり、原価が社内のどこにも無い状態でBIを導入しても、粗利のダッシュボードは作れません。「経営数字が見えない」の原因が並べ方ではなくデータの不在である場合、BIは解決策になりません。
この誤診は実際によく起きます。経営から「案件別の利益が見たい」という要望が出て、情報システム部門がBI導入を検討し、コネクタを繋いでみたところで気づく——HubSpotに入っているのは受注金額だけで、原価のデータがどこにもない。ここまで進んでから入力の設計に戻ることになります。
順序としては、まず「見たい数字の項目を書き出し、それぞれが現在どこにあるかを確認する」のが先です。すべてHubSpotの中にあるなら並べ方の問題、1つでも欠けているならデータの問題です。
4-2. HubSpotへ書き戻せない
BI側で加工した値をHubSpotのレコードに反映することもできません。BIは読み取り専用の下流工程です。
現場が入力した工数をHubSpotの取引にも反映したい、といった双方向の要件がある場合は、BIの守備範囲外になります。
4-3. 権限の細かい制御が別問題として残る
URLで共有できる手軽さは利点ですが、裏返せば「見せたくない数字をどう隠すか」を自分で設計する必要があります。
担当者ごとに見える範囲を変える、原価は責任者だけに見せる——といった制御をBI側で組もうとすると、データソースを分けたり、フィルタを工夫したりという作り込みが必要になります。CRM側の権限設計とは別に、もう1つ権限の仕組みを管理することになる点は認識しておいてください。
4-4. データが整っていない問題は下流では直せない
項目名がばらついている、必須項目が空欄のまま、パイプラインの使い方が部署ごとに違う——こうした状態のデータをBIに流しても、きれいなグラフにならないだけです。
可視化は最後の工程です。上流のデータ整備を飛ばして下流だけ整えることはできません。
なお、案件別収支の見える化という目的に対して、Excel・HubSpot作り込み・BI・専用アプリ・ERPの5手段を費用や運用負荷で比較した内容は案件別収支を見える化する5つの手段を比較にまとめています。
5. 判断基準
次の順に確認すると、自社に必要なものが絞れます。
Q1. 見たい数字は、すでにHubSpotの中に揃っているか
揃っていないなら、まずデータを持たせる設計が先です。BIの検討はその後になります。
Q2. HubSpot以外のデータと組み合わせる必要があるか
必要ならBIが有力です。CRM単体で完結する数字しか見ないのであれば、BIは過剰投資になりがちです。
Q3. 見るだけでよいか、入力も必要か
見るだけならBIで足ります。原価や工数の入力、HubSpotへの反映が必要なら、BIとは別の仕組みが要ります。
Q4. 誰が保守するか
BIのダッシュボードは、作った人が異動すると更新が止まりがちです。社内に継続して手を入れられる人がいるかを確認してください。
| 状況 | 適した選択 |
|---|---|
| 営業の数字を見たいだけ | HubSpot標準レポートで足りる |
| 広告・Web・会計と統合したい | BIツール(必要に応じてETL+DWH) |
| 原価・工数の入力先が無い | 入力の設計が先。BIはその後 |
| 月次の管理表を回したい | 入力と集計を同じ場所で扱える仕組み |
6. 運用に乗せるときの注意
6-1. 作る前に見る指標を決める
ツールを先に決めて後から指標を考えると、たいてい「なんとなく見栄えのいいダッシュボード」ができて誰も見なくなります。会議で実際に使う指標を先に列挙してください。
6-2. 更新が止まっていないか確認する仕組みを持つ
BIのダッシュボードは、データの更新が止まっても表示され続けます。最終更新日時を画面上に出しておくなど、鮮度が分かる状態にしておいてください。
6-3. 併用が基本
HubSpotかBIかの二択で考える必要はありません。営業は日々の管理をHubSpotで行い、経営会議用の統合ビューをBIで見る、という併用は自然な形です。
問題になるのは、同じ指標を両方で別々に定義してしまったときです。定義書を1つ作り、どちらの数字も同じ計算式に基づいている状態にしてください。
まとめ
- HubSpot標準レポートは、CRM内で完結する営業数字の可視化に強い
- BIは複数ソースの統合、表現の自由度、閲覧者を増やしやすい点で優れる
- 連携方法はコネクタ直結/スプレッドシート経由/ETL+DWHの3つ。まずコネクタで試す
- BIは入力先にならず、HubSpotへの書き戻しもできない
- 詰まっている原因が「並べ方」ならBI、「データの不在」なら入力の設計が先
- HubSpotとBIは二択ではなく併用が基本。指標の定義は1つに揃える
よくあるご質問
Q. Looker StudioとPower BI、どちらを選ぶべきですか?
Google環境が中心ならLooker Studio、Microsoft環境が中心ならPower BIが自然です。まずは無料で始められるLooker Studioで要件を確認し、機能や性能が足りない場合に他を検討する進め方が現実的です。
Q. BIを入れればExcelでの集計はなくなりますか?
可視化のためのExcelは減りますが、原価や工数の入力用に使っているExcelは残ります。BIは入力先にならないためです。転記をなくすには、データの入力先そのものを設計し直す必要があります。
Q. ETLやDWHは必要ですか?
HubSpot単体のデータを見るだけなら不要なことが多いです。複数システムのデータを統合し、履歴を蓄積して分析したい段階になってから検討してください。利用料と運用の手間が継続的に発生します。
Q. BIのダッシュボードを作れる人が社内にいません。
簡単なグラフであれば習得は難しくありませんが、計算フィールドやデータの結合を含む構築にはBIの知識が必要です。外部に構築を依頼する場合も、その後の変更を誰が行うかを事前に決めておくことをおすすめします。
月次の事業管理をHubSpotで完結させる:HS view
売上見込・原価・粗利・工数を1つの画面群で管理。HubSpotへの書き込みは工数データのみに限定し、それ以外は読み取り専用のため、本体のデータを壊す心配がありません。