電子帳簿保存法の検索要件3項目をHubSpotで満たす|範囲指定と組み合わせはどこまで必要か
電子帳簿保存法の検索要件は3つあります。この3つを「検索できます」という一言で満たせていると判断してしまうのが、いちばん多い誤解です。
そしてもう1つ。検索要件が不要になる条件は、2段階に分かれています。多くの解説が「売上5,000万円以下なら検索要件は不要」と一括りにしていますが、条文はそう書いていません。段階を取り違えると、必要な要件を満たさないまま運用することになります。
この記事では、3項目の中身と、緩和の2段階、そしてHubSpotで満たすときに何が要るかを整理します。記述は電子帳簿保存法施行規則とe-Govの条文、国税庁の一問一答に基づいています(2026年11月5日時点)。
帳票の発行から保存までの全体像はHubSpotで帳票を発行・管理する完全ガイドにまとめています。
1. 検索要件は3つ。条文で確認する
電子帳簿保存法施行規則2条6項5号(規則4条1項で準用)が、次の3つを求めています。
イ 取引年月日その他の日付、取引金額、取引先を検索の条件として設定することができること
ロ 日付または金額に係る記録項目については、その範囲を指定して条件を設定することができること
ハ 2以上の任意の記録項目を組み合わせて条件を設定することができること
1-1. 「検索できます」では足りない
イだけを見ると、取引先の名前でファイルを探せれば足りるように読めます。しかしロとハがあるため、実際に求められているのは次のような検索です。
「2026年9月1日から10月31日」かつ「10万円以上」かつ「A社」
ファイル名に日付と取引先を入れて共有フォルダに並べる運用では、ロの範囲指定とハの組み合わせが満たせません。日付で絞ったうえに金額でも絞る、という操作ができないためです。
1-2. 条文の言葉と一問一答の言葉が違う
実務の資料でよく出てくる「ダウンロードの求め」という言葉は、条文上の用語ではありません。条文は「電磁的記録の提示等の要求」と書いています。「ダウンロードの求め」は一問一答側の呼び方で、問59で定義されています。
意味は同じですが、条文を当たるときに言葉が見つからず混乱することがあるので、対応を覚えておくと早いです。
2. 緩和は2段階に分かれている
ここがこの記事の本題です。施行規則4条1項は、検索要件の除外を二段構えで定めています。
| 段階 | 条件 | 不要になる範囲 |
|---|---|---|
| 第1段階 | 電磁的記録の提示等の要求(ダウンロードの求め)に応じられるようにしている | ロとハだけが不要。イは残る |
| 第2段階 | 上に加えて、判定期間に係る基準期間の売上高が5,000万円以下、または出力書面を取引年月日その他の日付・取引先ごとに整理して提示・提出できる | イ・ロ・ハすべてが不要 |
根拠:電子帳簿保存法施行規則4条1項、一問一答【電子取引関係】問48・問51・問52
2-1. 第1段階でもイは残る
見落とされやすいのがここです。提示等の要求に応じられるようにしているだけでは、イの「取引年月日・取引金額・取引先で検索できること」は残ります。免除されるのは範囲指定と組み合わせだけです。
つまり多くの企業にとって、3項目で検索できる台帳は必要ということになります。
2-2. 判定は2期前の売上高
第2段階の5,000万円は、令和6年1月1日以後の電子取引から適用されています(改正前の基準額は1,000万円)。
注意が必要なのは判定の時期です。判定期間に係る基準期間とは、個人事業者なら電子取引が行われた日の属する年の前々年、法人なら前々事業年度です。
2期前の売上高で判定されるため、伸びている企業はある年から突然、検索要件が必要になります。しかも気づくのは、すでにその課税期間に入ってからです。売上が5,000万円に近づいてきたら、2年後を見越して準備しておくほうが安全です。
2-3. 猶予措置は別の規定
これとは別に、猶予措置があります(施行規則4条3項)。税務署長が「要件に従って保存することができなかったことについて相当の理由がある」と認め、かつ電磁的記録の提示等の要求と、出力した書面の提示・提出の要求の両方に応じられるようにしている場合、保存時に満たすべき要件が不要になります。
ただし、データそのものの保存は必要です。「猶予措置があるから何もしなくてよい」ではありません。一問一答の問93で扱われています。
検索要件3項目を含む24項目のチェックシート
適格請求書の記載事項6項目、消費税額の端数処理、適格返還請求書、電子帳簿保存法の検索要件と7年保存まで、条文番号とQ&Aの問番号つきで一覧にしました。自社の帳票運用がどこまで満たせているかを点検できます。
3. 真実性の確保も同時に見る
検索要件は可視性の確保の一部です。これとは別に、真実性の確保が求められます。施行規則4条1項は4つの措置を挙げ、いずれか1つを満たせばよいとしています。
| 号 | 措置 | 運用が続くか |
|---|---|---|
| 1・2 | タイムスタンプを付す | 外部サービスの利用と費用が発生する |
| 3 | 訂正・削除の記録が残るシステム、または訂正・削除ができないシステムで授受・保存する | システム側で担保できれば、運用の負担はほぼない |
| 4 | 訂正・削除の防止に関する事務処理規程を定め、備え付けて運用する | 規程は国税庁のサンプルで足りるが、運用が続くかは別問題 |
4号の事務処理規程を選ぶ企業が多いのですが、これは規程どおりに運用していることが前提です。共有フォルダに置いていて誰でも上書き・削除できる状態では、規程があっても実態が伴いません。3号でシステム側に担保させるほうが、運用が破綻しにくくなります。
あわせて可視性の確保として、システム概要書などのシステム関係書類の備付け(規則2条2項1号)、ディスプレイ・プリンタ等と操作説明書の備付け、整然とした形式および明瞭な状態で速やかに出力できること(同2号)も求められます。
4. HubSpotで満たすには台帳が要る
4-1. 添付ファイルだけでは満たせない
取引レコードにPDFを添付する運用は便利ですが、検索要件の観点では足りません。添付ファイルに対して「期間」かつ「金額」かつ「取引先」で絞り込む、という検索ができないためです。
必要なのは、取引年月日・取引金額・取引先を独立した項目として持つ一覧です。PDFそのものではなく、PDFを指す台帳を作る、という発想になります。
4-2. 台帳に持たせる項目
| 項目 | 満たす要件 | 注意 |
|---|---|---|
| 取引年月日 | イ・ロ | 日付型で持つ。文字列だと範囲指定ができない |
| 取引金額 | イ・ロ | 数値型で持つ。税込・税抜のどちらで持つかを決めておく |
| 取引先 | イ | 一部一致で引けること。表記ゆれがあると探せない |
| (上記の組み合わせ) | ハ | AND条件で絞れること。これが一覧画面でできるかを確認する |
なお、専用のシステムがない場合に索引簿を作って対応する方法は、一問一答の問50で扱われています。Excelの索引簿でも要件を満たせますが、その索引簿自体を訂正・削除できない状態にできるかという問題が残ります。3章の真実性の確保と合わせて考えてください。
4-3. 確認のしかた
仕様書を読むより、実際の画面で試すほうが確実です。次の3つを順にやってみてください。
- 取引先名で絞り込む(イ)
- そこに「2026年9月1日から10月31日」の期間条件を足す(ロ・ハ)
- さらに「10万円以上」を足す(ロ・ハ)
3つ目まで通れば満たせています。2つ目で止まるなら、組み合わせができていません。
どの手段を選ぶかによって、この台帳を自分で作るのか、仕組み側が持っているのかが変わります。HubSpotで帳票を出す4つの手段を比較で整理しています。
5. よくある誤解
| よくある理解 | 実際 |
|---|---|
| 売上5,000万円以下なら検索要件は不要 | 提示等の要求に応じられることが前提。また判定は2期前の売上高 |
| ダウンロードに応じられるなら検索要件は全部不要 | それだけではロとハのみ。イ(3項目での検索)は残る |
| ファイル名に日付と取引先を入れれば満たせる | イは満たせても、範囲指定と組み合わせができない |
| 事務処理規程を作ったので真実性はクリア | 規程どおりに運用していることが前提。誰でも上書きできる状態なら実態が伴わない |
| 猶予措置があるので何もしなくてよい | 相当の理由が必要。データそのものの保存は必要 |
まとめ
- 検索要件は3つ。3項目での検索(イ)、日付と金額の範囲指定(ロ)、2以上の組み合わせ(ハ)
- 緩和は2段階。提示等の要求に応じられるだけではロ・ハのみが不要で、イは残ります。全部不要になるには売上5,000万円以下などの条件が加わります
- 判定は2期前の売上高。伸びている企業は、ある年から突然必要になります
- 添付ファイルだけでは満たせません。3項目を独立した項目として持つ台帳が要ります
保存した帳票を7年残す設計についてはHubSpotに添付したPDFは「原本」なのかで扱っています。全体像はHubSpotで帳票を発行・管理する完全ガイドをご覧ください。
※ この記事の記述は、電子帳簿保存法施行規則(e-Gov)および国税庁の公開情報に基づき、2026年11月5日時点で確認したものです。電子帳簿保存法の解釈や自社の運用が要件を満たすかの最終的な判断については、顧問税理士・会計士にご相談ください。
HubSpot帳票 法令要件チェックシート(全24項目)
検索要件3項目・可視性3項目・真実性1項目を含む24項目を、条文番号とQ&Aの問番号つきで一覧にしました。判定をプルダウンで選ぶと集計されるExcel形式です。
よくあるご質問
Q. 検索要件の3項目とは何ですか?
取引年月日その他の日付・取引金額・取引先を検索の条件として設定できること(イ)、日付または金額について範囲を指定して条件を設定できること(ロ)、2以上の任意の記録項目を組み合わせて条件を設定できること(ハ)の3つです(電子帳簿保存法施行規則2条6項5号、規則4条1項で準用)。実際に求められるのは「2026年9月1日から10月31日」かつ「10万円以上」かつ「A社」のような絞り込みで、ファイル名で探す運用ではロとハが満たせません。
Q. ダウンロードの求めに応じられれば、検索要件は不要になりますか?
全部は不要になりません。提示等の要求(一問一答でいうダウンロードの求め)に応じられるようにしている場合に不要になるのは、ロの範囲指定とハの組み合わせだけです。イの「取引年月日・取引金額・取引先で検索できること」は残ります。イを含めて全部が不要になるのは、これに加えて判定期間に係る基準期間の売上高が5,000万円以下である場合、または出力書面を日付・取引先ごとに整理して提示・提出できる場合です(施行規則4条1項、一問一答問51・問52)。
Q. 5,000万円はいつの売上高で判定しますか?
判定期間に係る基準期間の売上高で、個人事業者なら電子取引が行われた日の属する年の前々年、法人なら前々事業年度です。つまり2期前の数字で判定します。注意が必要なのは、売上が伸びている企業では、ある年から突然この免除が使えなくなる点です。しかも2期前の数字で決まるため、気づくのはすでにその期に入ってからになります。5,000万円に近づいてきたら、2年後を見越して準備しておくことをおすすめします。
Q. 「規則4条1項ただし書」という引用を見かけますが、正しいですか?
正確ではありません。e-Govで施行規則4条の条文を確認すると、第1項に「ただし」という語はなく、検索要件の除外は本文中の括弧書きと「を除く」で規定されています。4条で「ただし」が現れるのは第3項(猶予措置)です。「規則4条1項ただし書」と書くと、猶予措置を定める3項のただし書と混同されるため、「規則4条1項」と引用するのが正確です。
Q. 取引レコードにPDFを添付していれば検索要件を満たせますか?
満たせません。添付ファイルに対して「期間」かつ「金額」かつ「取引先」で絞り込む検索ができないためです。必要なのは、取引年月日・取引金額・取引先を独立した項目として持つ台帳です。日付は日付型、金額は数値型で持たないと範囲指定ができません。取引先は一部一致で引ける必要があるため、表記ゆれがあると探せなくなります。
Q. Excelの索引簿で対応してもよいですか?
専用のシステムがない場合に索引簿を作って検索要件に対応する方法は、一問一答の問50で扱われています。索引簿自体は要件を満たせますが、別の問題が残ります。真実性の確保として、訂正・削除の記録が残るか、訂正・削除ができないか、事務処理規程を定めて運用するかのいずれかが必要です。索引簿のExcelファイルを誰でも上書きできる状態に置いていると、規程があっても実態が伴いません。
Q. 猶予措置があるので対応しなくてよいのでは?
猶予措置(施行規則4条3項)は、税務署長が要件に従って保存できなかったことについて相当の理由があると認め、かつ電磁的記録の提示等の要求と出力書面の提示・提出の要求の両方に応じられるようにしている場合に、保存時に満たすべき要件が不要になるというものです。ここで不要になるのは要件であって、データそのものの保存は引き続き必要です。「何もしなくてよい」という規定ではありません。