HubSpotで見積の多段承認を組む|標準機能でどこまでできて、どこで破綻するか
金額の大きい見積や、値引き率の高い請求を、担当者の判断だけで出してよいか。多くの会社で「よくない」という答えになります。では、その承認をどこで持たせるか。
HubSpotには承認の機能がありますが、プランの条件があり、対象となるオブジェクトも限られます。そして2025年9月に見積もり機能が2系統に分かれたため、どちらを使っているかで承認の仕様も変わります。
この記事では、標準機能でどこまでできるかを公式ドキュメントの記載で確認し、足りなくなる条件を整理します(2026年11月5日時点)。
帳票の発行から保存までの全体像はHubSpotで帳票を発行・管理する完全ガイドにまとめています。
1. まず自分の環境を確認する
承認の話に入る前に、見積もり機能がどちらの系統かを確認してください。2025年9月3日に、従来の見積もり(Legacy quotes)と見積もり(Quotes)の2つに分かれています。承認の仕様はまったく別物です。
| 従来の見積もり | 見積もり(新) | |
|---|---|---|
| 使えるか | Sales Hub。2025年9月3日以降に作成されたアカウントでは利用不可 | Revenue Hub Professional または Enterprise + Revenue Hubシート |
| 承認のプラン | Sales Hub Enterprise のみ | 標準承認=Revenue Hub Pro/Ent 高度な承認=Revenue Hub Enterprise |
| 承認者の人数 | 1名のみ | 標準:1設定あたり最大10名 高度:最大5シーケンス × 各最大10名 |
| 対象の絞り込み | 有効にするとすべての見積もりが対象 | 標準:プロパティでフィルター 高度:ワークフローのルール |
出典:HubSpotナレッジベース「Compare Sales Hub legacy quotes and Revenue Hub quotes」「Set up quote approvals」
注意点として、Revenue Hubシートを割り当てられたユーザーは、従来の見積もりとレガシーのテンプレートにアクセスできなくなります。承認の設計と移行の計画は、セットで考える必要があります。
2. 標準でできること
2-1. 見積もりの承認(新しい見積もり)
Revenue Hub Professional以上では、2つのモードがあります。標準承認と高度な承認は同時に有効化できません。どちらかを選びます。
| 標準承認 | 高度な承認 | |
|---|---|---|
| プラン | Revenue Hub Professional / Enterprise | Revenue Hub Enterprise のみ |
| 段階 | 順序なし。単独承認か全員承認を選ぶ | 優先度でランク付けした逐次承認。前段が完了してから次へ |
| 承認者 | 1設定あたり最大10名 | 最大5シーケンス × 各最大10名 |
| 条件 | プロパティのフィルター(値引き額、特定の明細など) | ワークフローのルール(分岐、関連オブジェクトも参照可) |
「多段承認」を厳密な意味(前段が承認したら次の人へ)で求めるなら、Revenue Hub Enterpriseが必要ということになります。標準承認は順序を持たないので、部長と役員のどちらが先かという制御はできません。
設定場所は、設定 > データ管理 > オブジェクト > 見積もり > 承認タブです。有効化はスーパー管理者が行います。承認者になるには「見積もりの承認」と取引の編集権限が要り、閲覧専用シートのユーザーは承認できません。自分が作った見積もりを自分で承認することもできません。
2-2. 取引のパイプライン承認
見積もりとは別に、取引に対する承認があります。Sales Hub Enterprise のみで、対象は取引(Deals)です。
パイプラインごとに承認ステージを作り、全取引か条件一致の取引かを選び、承認者(1パイプラインあたり最大10名)と「全員承認か、いずれか1名承認か」を設定します。承認ステージは1パイプラインに1つで、逐次承認の記載はありません。
運用上の注意が1つあります。承認プロセスをOFFにすると、進行中の承認がすべてキャンセルされ、元に戻せません。再度ONにするには承認ステージを作り直す必要があり、設定時点ですでにそのステージにある取引は対象外になります。
HubSpot帳票 法令要件チェックシート(全24項目)
適格請求書の記載事項6項目、消費税額の端数処理、適格返還請求書、電子帳簿保存法の検索要件と7年保存まで、条文番号とQ&Aの問番号つきで一覧にしました。自社の帳票運用がどこまで満たせているかを点検できます。
3. 対象外になるもの
3-1. 請求書は承認の対象ではない
ここが実務でいちばん効きます。承認の対象として公式ドキュメントに記載があるのは、見積もりと取引だけです。請求書や契約を承認の対象にするという記載は確認できませんでした。
見積の段階で承認を通していても、請求の段階で金額が変わることはあります。分割請求、追加作業、値引きの追加。請求書を出す直前にもう一度止めたい、という要件は標準では満たせません。
3-2. 承認後に内容を変更したときの挙動
もう1つ、公式ドキュメントで確認できなかった重要な点があります。承認済みの見積もりを編集した場合に、その承認が取り消されるのかどうかについて、記載を確認できませんでした。
関連する記述として、公開済みの見積もりは「承認される前」「全当事者に受諾される前」「支払われる前」であればリコールして編集できる、というものがあります。従来の見積もりについては「承認に提出した後は、承認者が却下しない限り編集できない」と書かれています。
この点は承認フローの実効性そのものに関わるので、承認したあとに金額を書き換えられる、を止めるで独立して扱っています。
4. 代替手段と、その共通の弱点
プランが届かない、または請求書も対象にしたい場合、現場では次のような代替が取られます。
| 代替手段 | できること | 限界 |
|---|---|---|
| ワークフローで上長にタスクを作る | 依頼の通知と、完了の記録は残る | タスクを完了しても発行は止まらない。運用ルールに依存する |
| カスタムプロパティのチェックボックス | 承認済みかどうかの状態は持てる | 本人がチェックできてしまう。履歴は残るが読みにくい |
| Slackや口頭で確認 | 速い | 記録が残らない |
どれも動きはします。ただ、3つに共通する弱点があります。何に対して承認したのかが残らないということです。
上長が承認したあとに担当者が金額や明細を変更して発行すれば、承認の記録は「その時点で見た内容」を証明していません。タスクの完了日時もチェックボックスも、金額とは紐づいていないからです。ワークフローが複雑になって運用が崩れる構造については、HubSpotの数字をExcelに転記しないための設計で扱っている二重管理の話と根は同じです。
5. 設計で決める4つのこと
承認フローは、作り込むほど止まります。決めるべきことを絞ると4つです。
| 決めること | 選択肢 | つまずきやすい点 |
|---|---|---|
| 承認を必要とする範囲 | 全体/パイプラインごと/金額の閾値 | 全体にかけると小口の発行が滞る。従来の見積もりは全件が対象になる点に注意 |
| 段階の数 | 1段/2段/それ以上 | 増やすほど滞留する。まず1段で足りるか見る。逐次にするならRevenue Hub Enterpriseが要る |
| 各段階の成立条件 | 全員の承認/誰か1人の承認 | 「全員」は1人の不在で止まる。代理を決めておく |
| 承認後に内容が変わった場合 | 再申請させる/そのまま発行させる | 決めていない運用が最も多く、最も効く |
4つ目を決めていないケースがほとんどです。ここを決めないまま承認フローを作ると、仕組みはあるのに実効性がない状態になります。
6. 標準で足りなくなったら
標準機能で足りなくなる条件は、はっきりしています。
- 請求書も承認の対象にしたい
- 前段が承認したら次の人へ、という逐次承認が要るが、Revenue Hub Enterpriseではない
- 承認後に内容が変わったら、その承認を無効にしたい
- 承認の記録を監査で出せる形で残したい
このとき取れる方向は2つあります。どちらを選ぶかは、承認したいものが「業務全体」か「帳票」かで分かれます。
| 向き | 合う状況 |
|---|---|
| 承認フローの仕組みを別に持たせる | 見積や請求だけでなく、稟議・発注・契約など社内の承認全般をまとめたい。基幹システムとの連携もある(承認フローQuest) |
| 帳票の発行に承認を組み込む | 承認したいのが帳票の内容そのもの。承認を通してから発行する、承認後に内容が変わったら止める、という流れにしたい(帳票スタジオ) |
前者は承認という業務そのものを設計する話、後者は発行の前に止める仕組みを持つ話です。両方が必要な会社もあります。
手段ごとの比較の観点はHubSpotで帳票を出す4つの手段を比較に整理しています。
まとめ
- 見積もり機能が2系統に分かれており、承認の仕様も別物です。まず自社がどちらかを確認してください
- 厳密な多段(逐次)承認はRevenue Hub Enterpriseが必要です。標準承認は順序を持ちません
- 請求書は承認の対象として記載がありません。請求の直前にもう一度止めたい場合は、標準では満たせません
- 代替手段の共通の弱点は「何に対して承認したかが残らない」こと。承認後に内容が変わった場合の扱いを決めてください
その4つ目をどう設計するかは承認したあとに金額を書き換えられる、を止めるで扱っています。全体像はHubSpotで帳票を発行・管理する完全ガイドをご覧ください。
※ HubSpotの仕様は公式ナレッジベース(英語版)の2026年11月5日時点の記載に基づきます。「記載を確認できませんでした」は、公式ドキュメントに記述が見つからなかったという意味で、対応していないという意味ではありません。仕様は更新されるため、実際の画面でご確認ください。
HubSpot帳票 法令要件チェックシート(全24項目)
適格請求書の記載事項から電子帳簿保存法の検索要件、写しの7年保存まで、条文番号とQ&Aの問番号つきで一覧にしました。判定をプルダウンで選ぶと集計されるExcel形式です。
よくあるご質問
Q. HubSpotで見積の承認を使うには、どのプランが必要ですか?
使っている見積もり機能によって違います。新しい見積もり(Quotes)の標準承認はRevenue Hub ProfessionalまたはEnterprise、高度な承認はRevenue Hub Enterpriseのみです。従来の見積もり(Legacy quotes)の承認はSales Hub Enterpriseのみで、承認者は1名、有効にするとすべての見積もりが対象になります。なお、2025年9月3日以降に作成されたアカウントでは従来の見積もりを利用できません。
Q. 多段階の承認はできますか?
「多段階」の意味によります。承認者を複数指定するだけなら標準承認でもでき、1設定あたり最大10名まで登録して「単独承認」か「全員承認」かを選べます。ただし標準承認は順序を持たないため、部長が承認してから役員へ、という逐次の制御はできません。前段が完了してから次の承認者に依頼する逐次承認が必要な場合は、高度な承認(Revenue Hub Enterprise)が必要で、最大5シーケンス、各シーケンス最大10名まで設定できます。
Q. 請求書に承認をかけられますか?
公式ドキュメントで承認の対象として記載があるのは、見積もりと取引(パイプライン承認)だけです。請求書や契約を承認の対象にできるという記載は確認できませんでした。見積の段階で承認を通していても、分割請求や追加作業、値引きの追加で請求の段階に金額が変わることはあります。請求書を出す直前にもう一度止めたいという要件は、標準機能では満たせないことになります。
Q. ワークフローでタスクを作る方法ではだめですか?
動きますが、限界があります。タスクを完了しても発行そのものは止まらないため、運用ルールに依存します。カスタムプロパティのチェックボックスで持たせる方法も同じで、本人がチェックできてしまいます。そして両方に共通する弱点が、何に対して承認したのかが残らないことです。タスクの完了日時もチェックボックスも金額と紐づいていないため、承認のあとに金額を変更して発行できてしまいます。
Q. 承認したあとに見積の金額を変更すると、承認は取り消されますか?
公式ドキュメントに記載を確認できませんでした。関連する記述として、公開済みの見積もりは承認される前・全当事者に受諾される前・支払われる前であればリコールして編集できるとあり、従来の見積もりについては承認に提出した後は承認者が却下しない限り編集できないと書かれています。ただし承認済みの見積もりを編集した場合の挙動は明示されていません。承認フローの実効性に直結する点なので、実際の画面で挙動を確認することをおすすめします。
Q. 取引のパイプライン承認とは何が違いますか?
対象が違います。パイプライン承認はSales Hub Enterpriseの機能で、対象は取引(Deals)です。パイプラインごとに承認ステージを作り、承認者を最大10名まで設定して全員承認か1名承認かを選びます。承認ステージは1パイプラインに1つで、逐次承認の記載はありません。注意点として、承認プロセスをOFFにすると進行中の承認がすべてキャンセルされ、元に戻せません。再開するには承認ステージを作り直す必要があります。
Q. 承認フローを設計するとき、最初に何を決めればよいですか?
4つです。承認を必要とする範囲(全体かパイプラインごとか金額の閾値か)、段階の数、各段階の成立条件(全員承認か1名承認か)、そして承認後に内容が変わった場合の扱いです。4つ目を決めていない運用が最も多く、しかも最も効きます。ここを決めないまま仕組みだけ作ると、承認はあるのに実効性がない状態になります。段階は増やすほど滞留するので、まず1段で足りるかを見ることをおすすめします。