免税事業者からの仕入れは70%控除になりました|7・5・3割控除への移行と、10月をまたいだ請求書の扱い
返品を受けた。値引きをした。期末にリベートを支払った。このとき、適格請求書発行事業者には「適格返還請求書」を交付する義務があります(消費税法57条の4第3項)。
見積書・請求書・納品書・領収書は多くのツールで出せますが、この帳票は対応が分かれます。そして返品や値引きは、ほとんどの事業で日常的に発生します。
この記事では、どういうときに交付義務が生じるのか、税込1万円未満の免除をどの単位で判定するのか、記載事項5項目は何かを整理します。制度に関する記述は国税庁の一次情報に基づいています(2026年8月31日に確認、2026年11月5日に再確認)。
帳票の発行から保存までの全体像はHubSpotで帳票を発行・管理する完全ガイドにまとめています。
1. いつ交付義務が生じるのか
1-1. 「売上に係る対価の返還等」を行ったとき
条文の言葉は「売上げに係る対価の返還等」です。具体的には次のようなものが該当します。
| 区分 | よくある例 |
|---|---|
| 返品 | 納品した商品が返送され、代金を返す |
| 値引き | 納品後に不具合があり、請求額を減らす。売手負担の振込手数料を値引きとして処理する |
| 割戻し | 一定期間の取引量に応じたリベート、年間の達成報奨 |
根拠:消費税法57条の4第3項、インボイスQ&A問27
ポイントは、すでに交付した請求書を訂正するのではなく、別の帳票として交付するという点です。元の適格請求書はそのまま残り、返還分を記載した適格返還請求書を新たに出します。
1-2. 義務は売手側にある
交付義務を負うのは、適格請求書発行事業者である売手です。買手から求められたときに出すのではなく、対価の返還等を行った時点で交付する義務が生じます。
免税事業者や、適格請求書発行事業者でない事業者には、この義務はありません。
2. 税込1万円未満は免除。判定単位に注意
2-1. 免除の規定
対価の返還等に係る税込価額が1万円未満である場合、交付義務は免除されます(消費税法施行令70条の9第3項2号)。
なお、少額特例(税込1万円未満の課税仕入れについて帳簿のみの保存で仕入税額控除ができる特例)には令和11年9月30日までという期限がありますが、この適格返還請求書の免除には、条文上そうした期限の定めが置かれていません。混同されやすいので、別の規定として扱ってください。
2-2. 判定は「請求や債権の単位ごとの減額金額」
実務が分かれるのはここです。何を1万円と比べるのか。
インボイスQ&A問28は、返還した金額や値引き等の対象となる請求や債権の単位ごとの減額金額で判定するとしています(消費税法38条1項、消費税法基本通達1-8-17)。年間の合計や、取引先ごとの累計ではありません。
| ケース | 何と1万円を比べるか | 交付義務 |
|---|---|---|
| 売手が負担する振込手数料相当額440円を、売上値引きとして処理する | その請求ごとの減額金額(440円) | 免除される |
| 複数の取引をまとめた割戻しとして、合計20,000円を支払う | まとめた減額金額の合計(20,000円) | 免除されない。交付が必要 |
出典:インボイスQ&A問28(令和5年4月追加・令和5年10月改訂)
この2つの対比が、判定単位の考え方をそのまま示しています。1件ずつ処理すれば小さく、まとめて処理すれば大きくなるということです。
2-3. 振込手数料の扱いは、先に社内で決める
売手が振込手数料を負担する商習慣は、日本では珍しくありません。この処理には大きく2つの方法があります。
- 売上値引きとして処理する:対価の返還等になるため、適格返還請求書の論点に入る。ただし金額が小さいので、多くの場合は1万円未満で免除の範囲
- 支払手数料として処理する:この場合は対価の返還等ではなく、別の取扱いになります
どちらで処理するかによって扱いが変わるので、経理の処理方針を先に決めてから帳票の仕組みを考えてください。個別の処理方法の選択については、顧問税理士にご確認ください。
適格返還請求書5項目を含む24項目のチェックシート
適格請求書の記載事項6項目、消費税額の端数処理、適格返還請求書、電子帳簿保存法の検索要件と7年保存まで、条文番号とQ&Aの問番号つきで一覧にしました。自社の帳票運用がどこまで満たせているかを点検できます。
3. 記載事項は5項目。適格請求書とは違う
適格請求書は6項目ですが、適格返還請求書は5項目です。似ているようで中身が違います。
| # | 記載事項 | 適格請求書との違い |
|---|---|---|
| 1 | 発行者の氏名または名称と、登録番号 | 同じ |
| 2 | 対価の返還等を行う年月日と、その対価の返還等に係る課税資産の譲渡等を行った年月日 | 日付が2つ要る。ここが最大の違い |
| 3 | 対価の返還等に係る資産または役務の内容(軽減税率の対象ならその旨) | 対象が「返還の対象」になる |
| 4 | 税率ごとに区分して合計した対価の返還等の金額 | 金額が返還額になる |
| 5 | 対価の返還等の金額に係る消費税額等または適用税率 | 「または」。適格請求書は両方必要だが、こちらはどちらかでよい |
根拠:消費税法57条の4第3項、インボイスQ&A問60
3-1. 2つの日付が、仕組みの設計に効く
2番目の項目が実装上やっかいです。返還を行う年月日だけでなく、元の課税資産の譲渡等を行った年月日も必要になります。
つまり「今月返金した」という情報だけでは足りず、「いつの売上に対する返金か」を追えていなければ書けません。返品や値引きを単独の取引として記録していると、この紐づけが失われます。
もっとも、継続的な取引であれば、合理的な方法で記載することが認められる場合があります。実際の運用に当てはめるときは、顧問税理士にご確認ください。
3-2. 5番目が「または」である意味
適格請求書では、適用税率(4番目)と税率ごとに区分した消費税額等(5番目)の両方が必要です。適格返還請求書では、消費税額等または適用税率のどちらかでよいとされています。
とはいえ、消費税額を記載するなら端数処理の考え方は適格請求書と同じで、税率ごとに区分した金額に対して処理します。計算の考え方は消費税の端数処理は税率ごとに1回だけをご覧ください。
4. 1枚にまとめる運用
毎月取引がある相手に対して、当月の請求と前月分の返品を別々の帳票で出すのは手間です。
実務では、1枚の書類に当月の売上と返還分の両方を記載する運用が取られることがあります。この場合に確認すべきことははっきりしていて、適格請求書の記載事項6項目と、適格返還請求書の記載事項5項目の両方が、その1枚の中で満たされているかです。
特に落ちやすいのが、返還分についての「元の課税資産の譲渡等を行った年月日」です。当月の請求書に返還の行を1行足しただけでは、この日付が入りません。
1枚にまとめる場合は、当月の売上と返還分の金額を、それぞれ税率ごとに区分して表示し、返還分には元の取引年月日を添えます。差引後の金額だけを書くと、記載事項を満たしません。
具体的な記載方法については、採用する様式とあわせて顧問税理士にご確認ください。
5. 実務でつまずくところ
5-1. そもそも発行できる手段がない
相談を受けていていちばん多いのがこれです。見積書・請求書・納品書・領収書は出せるのに、適格返還請求書だけ出せない。結果として、Excelで個別に作るか、請求書を訂正して出し直すという運用になっています。
帳票ツールを検討するときは、対応帳票の一覧に適格返還請求書が入っているかを最初に確認してください。返品や値引きが日常的に発生する事業なら、これは比較の最初のふるいになります。手段ごとの比較はHubSpotで帳票を出す4つの手段を比較で扱っています。
5-2. 請求書を訂正して出し直してしまう
返品があったときに、元の請求書を取り消して金額を減らした請求書を出し直す。これは一見きれいですが、問題があります。
元の取引は実際に行われていて、買手はすでにその請求書で仕入税額控除の処理をしている可能性があります。対価の返還等は、元の取引をなかったことにするのではなく、返還という別の事実として記録するものです。
加えて、出し直しは帳票の記録としても扱いが難しくなります。交付した適格請求書の写しには7年の保存義務があり、取り消した記録も残す必要があります。この考え方はHubSpotに添付したPDFは「原本」なのかで扱っています。
5-3. 免除だから何も残さない
1万円未満で交付義務が免除される場合でも、自社の帳簿では対価の返還等として記録する必要があります。免除されるのは買手に交付する義務であって、記録そのものが不要になるわけではありません。
振込手数料を売上値引きとして処理している場合、件数が多くなります。帳簿側で拾えているかを一度確認してみてください。
まとめ
- 返品・値引き・割戻しをしたら、適格返還請求書の交付義務が生じます(消費税法57条の4第3項)
- 税込1万円未満は免除。判定は請求や債権の単位ごとの減額金額で行います。振込手数料相当額は免除の範囲に入りますが、まとめた割戻しが1万円以上になれば交付が必要です
- 記載事項は5項目。日付が2つ要ります。返還を行う年月日と、元の課税資産の譲渡等を行った年月日です
- 免除されるのは交付の義務であって、帳簿への記録ではありません
この帳票は対応が分かれる領域です。返品や値引きがある事業なら、発行できる状態にしておくことをおすすめします。
帳票の発行から保存までを通して整理したい場合はHubSpotで帳票を発行・管理する完全ガイドをご覧ください。
※ この記事の制度に関する記述は、国税庁の公開情報に基づき2026年8月31日に確認し、2026年11月5日に再確認したものです。消費税法の解釈や、自社の取引が対価の返還等に該当するかの判断、個別の処理方法の選択については、顧問税理士・会計士にご相談ください。
HubSpot帳票 法令要件チェックシート(全24項目)
適格返還請求書の5項目を含む24項目を、条文番号とQ&Aの問番号つきで一覧にしました。判定をプルダウンで選ぶと集計されるExcel形式です。自社の帳票がどこまで満たせているかを点検できます。
よくあるご質問
Q. 適格返還請求書は、どんなときに必要になりますか?
返品、値引き、割戻し(リベート)など、売上に係る対価の返還等を行ったときです(消費税法57条の4第3項)。適格請求書発行事業者である売手に交付義務があり、買手から求められたときではなく、対価の返還等を行った時点で義務が生じます。すでに交付した請求書を訂正するのではなく、別の帳票として交付するという点が特徴です。元の適格請求書はそのまま残ります。
Q. 1万円未満の判定は、何を1万円と比べるのですか?
返還した金額や値引き等の対象となる、請求や債権の単位ごとの減額金額です(インボイスQ&A問28、消費税法基本通達1-8-17)。年間の合計や取引先ごとの累計ではありません。たとえば売手が負担する振込手数料相当額440円を売上値引きとして処理する場合は、その請求ごとの440円で判定するため免除の範囲に入ります。一方、複数の取引をまとめた割戻しとして合計20,000円を支払う場合は、まとめた金額で判定するため交付が必要です。
Q. 1万円未満の免除には期限がありますか?
少額特例(税込1万円未満の課税仕入れについて帳簿のみの保存で仕入税額控除ができる特例)には令和11年9月30日までという期限がありますが、適格返還請求書の交付義務の免除については、条文上そうした期限の定めが置かれていません(消費税法施行令70条の9第3項2号)。名前も金額も似ているため混同されやすいのですが、別の規定です。
Q. 記載事項は適格請求書と同じですか?
違います。適格請求書は6項目ですが、適格返還請求書は5項目です。最大の違いは日付で、対価の返還等を行う年月日と、その対価の返還等に係る課税資産の譲渡等を行った年月日の2つが必要になります(インボイスQ&A問60)。もう1つの違いは5番目の項目で、適格請求書が適用税率と消費税額等の両方を求めるのに対し、適格返還請求書は消費税額等または適用税率のどちらかでよいとされています。
Q. 当月の請求書に返品分をまとめて書いてもよいですか?
1枚の書類に当月の売上と返還分の両方を記載する運用が取られることがあります。その場合に確認すべきなのは、適格請求書の記載事項6項目と適格返還請求書の記載事項5項目の両方が、その1枚の中で満たされているかです。落ちやすいのは返還分についての「元の課税資産の譲渡等を行った年月日」で、当月の請求書に返還の行を1行足しただけでは入りません。また、差引後の金額だけを記載すると記載事項を満たさないため、売上と返還分をそれぞれ税率ごとに区分して表示する必要があります。具体的な様式は顧問税理士にご確認ください。
Q. 返品があったとき、元の請求書を出し直せばよいのではないですか?
対価の返還等は、元の取引をなかったことにするのではなく、返還という別の事実として記録するものです。元の取引は実際に行われていて、買手はすでにその請求書で仕入税額控除の処理をしている可能性があります。また、交付した適格請求書の写しには7年の保存義務があるため、出し直しをすると取り消した記録も含めて残す必要が出てきます。返還は返還として、適格返還請求書で処理するのが本来の形です。
Q. 交付義務が免除される場合、何も記録しなくてよいですか?
いいえ。免除されるのは買手に交付する義務であって、自社の帳簿に記録する必要がなくなるわけではありません。対価の返還等として帳簿に記録してください。特に振込手数料を売上値引きとして処理している場合は件数が多くなるため、帳簿側で漏れなく拾えているかを確認することをおすすめします。